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高森明勅
2016.6.30 06:20

「歴史認識」是正を邪魔する役人根性

秦郁彦氏の新著『慰安婦問題の決算』。

その「あとがき」に意外な事実が記されている。

日本政府は慰安婦問題を巡る国際的な誤解・曲解を是正すべく、
同氏の労作『慰安婦と戦場の性』の英訳を企てながら結局、
中止になってしまった。

その舞台裏が明らかにされているのだ。

同書は秦氏が精根を込めて書き上げた、極めて実証的で綿密・
周到な
研究書。

殆ど慰安婦問題の“決定版”と言うべき名著だ。

これが英訳され、広く世界で読まれたら、
慰安婦問題を巡る情報環境は
劇的に改善されたはず。

英訳の企画が持ち上がったのは平成25年。

事業は外務省から内閣官房に移管。

予算規模も固まり(500万円、但し印税無し)、実務は電通に
委託されることに。

訳者も、秦氏が推薦した(氏の昭和天皇伝を英訳した実績を持つ)
米国人に内定。

万事順調に進んでいた。

ところが同年7月、内閣官房国際広報室を主管する内閣広報官に
新しく就任した長谷川
榮一氏(通産省中小企業庁長官を退官後、
総理大臣補佐官に)
から秦氏にアプローチ。

いきなり第5章「諸外国に見る戦場の性」を丸々削除せよ、
と迫って来た。

外国人の読者を刺激するおそれがある」というのが、その理由。

この
章は確実な資料をもとに、第2次大戦前後のイギリス・アメリカ
ドイツ・フランス・ソ連の兵士たちの性処理の実態を明らかにした
もの。

批判や論評を排して、ひたすら事実を追及している。

それによって読者は、
国際的な視野から見て日本軍の慰安婦が決して
特異な存在ではなか
った事実に、自ずと気付くはずだ。

本書の中でも価値の高い章。

長谷川氏は「外国人の読者」
にどういう気の回し方をしているのか。

秦氏が
原著と英訳の差異が大きいと、騒ぎになり、誰が削除させたか
探索し、
スキャンダルに仕立てるマスコミも出るだろう。
そのほうがよほどリスクが大きい」と反論すると、呆れたことに
長谷川氏はこう言い放ったという。

秦さんが自発的に落としたと言い張ればよい」と。

その他にも細かな削除要求を出し、
それらの要求は安倍首相と
菅官房長官の意向だと述べた。

大部かつ専門的な著作のそんな細かい箇所まで、
首相や官房長官がわざわざ読み込んで一々注文を付けてくるなど、
にわかに信じがたい。

そもそも、こんな些末なやり取りに殊更、首相や官房長官の名前を
振りかざす感性が普通ではない。

秦氏は結局、英訳の中止を決断。

「たとえ私が先方の条件を呑んだとしても、その後も思いつきで追加の
注文を次々に出しそうだと判断した」
からだそうだ。

何と愚劣極まることを長谷川榮一なる屑役人はしてしまったのか。

彼の小役人根性のせいで、同書の英訳が挫折した結果、
喪われた国益は
甚大だ。

何より、国際社会で汚されたままの旧日本軍の名誉を回復する折角の
機会を
、みすみす潰してしまった事が悔やまれてならない。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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