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高森明勅
2017.1.9 23:00

ためらひつつ、さあれども行く

年頭、昨年の天皇陛下の御製、皇后陛下の御歌が発表されている。

その中から。

両陛下は昨年5月、前月の地震で大きな被害があった
熊本を親しくお見舞いになった。
その時の御製。

幼子の
静かに持ち来(こ)し
折り紙の
ゆりの花手に
避難所を出づ

両陛下は、
避難所になっていた益城中央小学校の
体育館をお見舞いになった。
その折、小学生の女児から色紙で折ったユリの花束を
受け取られている。
その事実を事実のままにお詠みになっている。
そこに陛下のお気持ちが滲む。

天皇と国民の美しい情景。

熊本へのお出ましの際の様々な出来事から、
陛下はその場面を和歌にされた。

心が温かくなる。

皇后陛下の御歌にも同じ熊本へのお出ましのことが詠まれている。

ためらひつつ

さあれども行く
傍(かたは)らに
立たむと君の
ひたに思(おぼ)せば

皇后陛下は被災地へのお出ましに「ためらひ」を覚えておられる。
これは些か意外な事実かも知れない。
大きな苦しみと悲しみの中にある人々を
果たして自分などが見舞うことが出来るだろうか、
という恐れに近いためらい」を持っておられる。

極めてご謙虚。

しかし、悲しみ苦しむ人々の「傍らに」立とう、
と陛下が一途に思っておられる限り
昨年8月8日のおことばが想起される)、それに従い、
あらゆる迷いも捨て去って、ただ陛下の思し召しのままに、
自分も被災地に共に「行く」と。

「さあれども行く」。
この潔い毅然たる詠みぶりは、いかにも皇后陛下らしい。

皇后陛下は昨年4月3日、奈良県橿原市の神武天皇陵で行われた、
神武天皇2600年式年祭の際に、神武天皇を祀る橿原神宮にも
お参りになった折のことも、
お詠みになっている。

遠つ世の
風ひそかにも
聴くごとく
樫の葉そよぐ
参道を行く

遠い歴史の彼方から吹いて来る風の音を、
ひそやかに聴いたかのように感じ取れる、
皇后陛下の感性は、
それ自体が神々の恩寵であろうか。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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