ゴー宣ネット道場

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倉持麟太郎
2017.2.24 03:17

権力の弛緩と僕らの自由について(2)自由の”共食い”を生む共謀罪

【夢、情熱】
得体のしれないウイルスから人々を守るために、効く効くといわれているワクチンが発明された。
ただし、このワクチンには強い副作用がある。正常な細胞までむしばんでしまうのだ。
人々は、ウイルスにおそれるあまり、このワクチンを過剰摂取した。
その結果、人々の体内の正常な細胞まで、すべて死滅してしまった。

【共謀罪狂想曲】
国会では、共謀罪をめぐって、金田法務大臣が、その答弁内容も答弁姿勢もフラフラノックアウト寸前で、挙句、「もうこれ以上攻撃しないで」というペーパーを出し、内閣の国会に対する責任を放棄し議院内閣制を侵犯、メディアの報道の自由に対しても無自覚的に圧力をかける、という異常空間であった。いまだに、金田大臣の答弁は、答弁と呼ぶのもはばかられる、極最低劣悪劣弱不誠実怠惰答弁であり、もはや法案提出責任者としてまったくふさわしくないことは、誰の目から見ても明らかである。

彼をこの任務においておくことは、野球の9人のポジションの1つに猿の人形を置いておくようなものである。つまり、冒涜である。

最大の逃げ口上は「成案を得てから答弁いたします。」であったが、ついに、テロ等準備罪の法案が、3月7日閣議決定、3月10日に提出されるということだ。これも、3月11日という東日本大震災のあの日の前後、メディアが震災について集中的に報道し、特集含めまったく枠のないところにぶつけてくるあたり、やはり情報戦略としてしたたかな政権だ。

【議論の単純化】
共謀罪の議論は簡単で、そもそも、行為がなくとも共謀(合意)するだけで逮捕という重大な身体拘束がありうるのであるから、人身の自由(憲法31条)や思想良心の自由(19条)が制限されている。
これら尊い権利についての重大な権利制限なのであるから、権利制限をする側たる政府は、当該制限の適法性・合憲性を立証しなくてはならない。あくまでも、立証責任は、政府にある。
そこで、司法試験受験生よろしく論証すれば、ここで持ち出されるのがこの制限が憲法上許されるかどうかを判断する違憲審査基準である。具体的には、制限の目的と手段を精査する。
今回の場合は、人の内心と身体という極めて重要な権利に対する強力な制約であるから、政府は目的の必要不可欠性と、手段の必要最小限度性を立証せねばならない。
さらに一歩踏み込むと、この手段が必要最小限度かどうかというのが大事で、ここを厳格に審査する手法をLRA審査という。LRAとは"less restrictive alternative"の略で、「より制限的でない他の手段」があるかどうかをテストすることにより、当該制約手段が必要「最小限」かを判断するという、厳格な審査手法である。

 
共謀罪では、下記のとおり、共謀罪という「行為」以前の合意を取り締まらなくても、未遂罪や予備罪という、行為自体が危険性を有する場合に取り締まるという、共謀の手前の罪、すなわち「より権利制限的でない」ほかの手段が存在する。
はからずも、それが、今国会で明確に反証された。すなわち、政府は、この法案による権利制約についての立証責任を果たせなかったことになる。
したがって、法律や論理(や答案用紙)の世界では、包括的な共謀罪の制定は、憲法上も認められず、お引き取り願うことになる。これでおしまい。
(そもそも、「組織的犯罪集団」等の概念が、漠然不明確である等の観点から、文面審査で違憲性が認められアウト、ということもありうる。)
のはずが、そうはいかないのが、政治の世界である。
今見た目的や手段について、もう少し詳しく立ち入ってみよう。

【立法事実:法案の必要性:三つの穴】
今回、政府が国会に提出した法案は、「テロ等準備罪」という名前であるが、内実は過去三回廃案になった共謀罪とその内容において変わらない(どう変わらないか、については後述)。
101回告白するとドラマになるくらいなので、3回フラれたのに告白する男をしつこい!と思うか執念深い!と思うか武田鉄矢!と思うかは無制限の個人の思想良心にゆだねるとしても、そもそも今回の法案は、過去の共謀罪と同趣旨のものを出してきたのだろうか?
総理によれば、前回廃案になっていた共謀罪と今回のテロ等準備罪が同じというのは「全くの誤り」だそうだ。
では、今回の法律を制定する必要性はどこにあるのだろうか。

その法律を制定する必要性を「立法事実」という。
今回、法務省は、本法案の立法事実として、3つの事例を出してきた。つまり、既存の法体系では、処罰できない3つの事例だ。共謀罪を創設しないと処罰できないという。これがまさにテロ等準備罪制定の必要性の要、これが倒れれば本罪制定の必要性なし。
その事例が以下である。

 

(立法事実1)テロ組織が殺傷能力の高い化学薬品を製造し、これを用いて同時多発的に一般市民の大量殺人を行うことを計画した上、例えば、殺傷能力の高い化学薬品の原料の一部を入手した場合

 これは、規律しうる現行法を探すと、「サリン等による人身被害の防止に関する法律」が存在する。その第2条で処罰対象の物質については「政令で定める」としている。

 

 つまり仮に現在規制されていない危険な化学薬品でも、新たに危険な物質が登場すれば行政府が「政令」で加えれば足りる。また「原料の一部を入手した場合」についても、当該法律の原料の一部の猛毒性の要件を緩和することや、条文の文言に、原料の一部入手の場合も書き加えればよい。

 

 では現行法でも対処できない危険な薬品はどれだけ存在するのだろうか。

 2月3日の衆院予算委で民進党の山尾志桜里議員が「(現行法上規定されている)サリン等にあたらないけど殺傷能力の高い薬品の名前を挙げてほしい」と質問したところ、金田勝年法相は「具体的な薬品を想定していない」と答弁した。


 さらに安倍首相はこう答えた。

 「テロ組織あるいは国家ぐるみで、化学兵器になる毒性物質をひそかに開発しているのは当然のことであろう。(中略)未知のものであっても準備を行っていることが明らかになれば検挙できる」

「未知の薬品もある」。だから共謀罪が必要だ。こんな論理はまかり通るだろうか。罪と刑を事前に法定しなければならならい「罪刑法定主義」(憲法31条)に反する疑いすらある。つまり、犯罪構成要件を明確にすることで、裏から「どこまでなら自由か」の枠を規律している刑事法の機能を果たせないということである。

政府が例示した一つ目の事案は「政令」で危険物質をその都度加えたり、既存法の条文の文言の細部を改正すれば足り、包括的な共謀罪よりも「より制限的でない」手段が存在することになる。

 

(立法事実2)テロ組織が複数の飛行機を乗っ取って高層ビルに突撃させるテロを計画した上、例えば、搭乗予定の航空機の航空券を予約し

た場合

 

 これは一つ目の事例以上にひどい。過去の参院法務委員会で「航空機強取等処罰法」(通称・ハイジャック防止法)について同様の事例が挙げられ当時の法務省刑事局長はこう答弁している。

 

 「航空券を買ったという場合にも、ハイジャックをやるというその目的でその当該の航空券を買ったというような場合が第3条の予備に当たるわけでございます」

 つまり現行法のハイジャック防止法でも、航空券購入段階を予備罪で処罰できると過去に政府が法解釈しているにもかかわらず、無理くり「対応できない事例」として今さら例示したわけだ。立法事実1とあわせて、オウム事件や9・11を想起させるような典型的なテロ事例を「検挙できない」などと政府答弁することの方がよっぽど危険だ。

 

(立法事実3)テロ組織の複数のクラッカーが分担してウイルス・プログラムを開発し、そのウイルスを用いて全国各地の電力会社、ガス会社、水道会社等の電子制御システムを一斉に誤作動させ、大都市の重要インフラを麻痺させてパニックに陥らせることを計画した上、例えば、それらのクラッカーがコンピューターウイルスの開発を始めた場合

 

 これは2011年に成立した刑法改正で盛り込まれた「不正指令電磁的記録に関する罪」(168条の2、168条の3)が問題となる。

 

 ただこの犯罪は現行法上未遂が処罰されない。法案を検討する際に、あまりに広範な処罰の恐れがあると指摘されあえて未遂を処罰しないという政策判断があったようだ。だが、もし事例に挙げているようなサイバーテロの恐れがあり、既遂以前の段階を処罰する必要性があるなら、個別に、既遂以前の未遂や準備・予備、さらには未遂よりも前段階であるの共謀・陰謀を処罰対象にすれば足りる。

 

 このようにしてみるといずれも「より制限的でない手段」は明らかに存在する。したがって、目的達成のための手段としては、必要不可欠とはいえず、また、政府が、本法案の立法事実=必要性として挙げた3つの事例=穴は、より制限的でない手段によって埋まることが明らかとなり、立法事実も存在しない。したがって、包括的共謀罪を創設する正当性は崩れた。

 

【デジャビュ】

 このような光景は、デジャビュではないか。そう、2015年の安保法制である。政府は、現行の個別的自衛権では対応できない事例として、ホルムズ海峡の機雷掃海事例、米艦防護(お母さんが赤ちゃんを抱いたあのフリップのやつだ)を立法事実に掲げた。このとき、政府は、集団的自衛権行使を解禁したいがゆえに、個別的自衛権を極端に矮小化した。「個別的自衛権なんて何にもできない、だから集団的自衛権が必要です」と。これによって、発艦準備中の戦闘機への給油に対する自衛権行使など、従前、個別的自衛権でカバーできていたケース等まで、できないという答弁に変えてしまった。

このときも、無理に「集団的自衛権を必要とする状況」を作り出すためにひねり出されたのが、ホルムズ事例と米艦防護事例である。そして、政府は、法案成立の直前、参院審議の最終盤に、これらの事例については、「想定していない」と、立法事実がないことを認めた。

今回も、この立法事実たる3事例は、サンドバックか撒き餌のようなもので、最後は「想定していない」となるのであろうか。そうであれば、もはや必要性がないにもかかわらず、立法がなされることになり、まさに立法権の担い手である国会と内閣は液状化的に同化しチェック&バランスももちろん機能不全となる。立法権の濫用であり、権力の濫用である。

(つづく)

倉持麟太郎

慶応義塾⼤学法学部卒業、 中央⼤学法科⼤学院修了 2012年弁護⼠登録 (第⼆東京弁護⼠会)
日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事。東京MX「モーニングクロ ス」レギュラーコメンテーター、。2015年衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考⼈として意⾒陳述、同年World forum for Democracy (欧州評議会主催)にてSpeakerとして参加。2017年度アメリカ国務省International Visitor Leadership Program(IVLP)招聘、朝日新聞言論サイトWEBRONZAレギュラー執筆等、幅広く活動中。

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