ゴー宣DOJO

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泉美木蘭
2016.9.1 23:24

明治時代の『女帝を立るの可否』論争

岩波書店刊行の『日本近代思想大系』に、
近代の天皇像が形成され、旧皇室典範が公布されるまでの論説史料を
まとめた巻があります。
このなかに、明治15年3月、自由民権結社「嚶鳴社」が行った
『女帝を立るの可否』という論争の記録が収録されています。

この論争では、まず嚶鳴社の主要人物・島田三郎が口火を切って、
かなり強硬な男系男子論を論じています。
この人は、弁舌がものすごく巧みだった様子。まず自分への反論を想定して、

「逐一これを論破し去り、余の主論をして強固ならしめんとす!!

と宣言し、畳みかけるように「この男尊女卑の国で女帝なんかダメダメ
の自論をゴリゴリと
展開し、いきなり押せ押せモード。
続いて、これを受けた7名の論者たちが意見を述べはじめるのですが、
時代背景的に、もちろん全員が女帝に否定的・・・・・・かと思いきや、
史料を読んでみると、発言者8人のうち、男系男子論は
3人だけ。
「重んじるべきは皇統の保続でしょ」
「過去の女帝、
別に卑しまれてないよ
と、5人は女系容認なのです。
ただ、結果的には、この論争のなかで島田三郎が発言した、

「我国の現状、男を以て尊しとなし、之を女子の上に位せり。」

「皇婿を出して女帝に配侍せしむるに於て、人民は、女帝の上に
別に貴者あるが如き思を為すを免るゝ能はず」

また、嚶鳴社の設立者・沼間守一による

「男を尚(たっと)び女を次にするは、現に我国人の脳髄を支配
するの思想にして、血統は男統に存すと思惟するもまた我国人
慣性に固着せり。」

などの発言を、のちに井上毅が引用し、伊藤博文を説得したことで、
旧皇室典範が制定されるのですが・・・。
島田三郎の意見を追っていくと、「女帝がダメな理由」として、
次のような理由が挙げられています。

(※実際の史料は明治の文体ですが、以下、わかりやすく現代語訳します)


「8人10代の女帝がいるが、みんな単なる中継ぎでしかない!」
「推古天皇は、崇峻天皇が暗殺されたために即位したが、
同時に聖徳太子が皇太子として立てられているじゃないか!
推古天皇はあくまでもピンチヒッターでしかなかったんだ!」

「持統天皇は、そもそも皇位を継ぐ予定だった草壁皇子が成長する
までの中継ぎとして即位しただけ!」

「そもそもこの8人の女帝は独身か、元皇后の未亡人だったんだ!」

「女帝が即位すると、結婚相手として、どこの馬の骨かわからない男
が皇統に入り込むことになってしまう!

「女帝の夫が、女帝を操って間接的に威勢をふるうかもしれない!」

「もし女帝が支那人と結婚したら、とんでもないことになっちゃうぞ!?」

「一般庶民はみんな結婚しているのに、女帝にだけは生涯独身でいて
もらうなんて、自然の摂理に反するしあまりにも気の毒じゃないか!」

「だいたい、女帝がたつと、違和感を持つ大衆がいるだろう!?」

・・・あ、あれ?
これ、竹田恒泰氏はじめ現代の男系固執派やネット右翼の人々が
いま言ってることそのままなんですけど。

なんだ、彼ら、平成28年にもなるのに、
いまだに明治15年の言説を
そっくりそのまま忠実に
トレースして唱えていただけだったのか。

しかも、明治時代の8人の論者の意見を読んでいくと、
論点は「制度」や「対策」や「伝統」の問題だけではなく、話の中心は、
天皇に対して大衆がどんな感情を持つか?」ということや、
「大衆が受け入れる天皇像とは?」ということに集約されていくのです。
だからこそ、「男を尊び女を卑しむ」時代背景が勝利したのだと思います


平成の時代になっても、この「大衆の受け入れる天皇像」が重要である点は
同じなのではないかと私は思います。
国民は、「男系男子の御方だから」という理由で天皇陛下を敬愛し、権威を
感じているわけではありませんよね。
だから「男の血!」と強弁されたり、「ぼく、旧宮家系ですから」みたいな顔を
されても、「はあ?」と感じて嗤う人のほうが多いんです。

「2650年以上も続いてきた美しい男系維持の伝統」じゃないですよ。
「明治
時代よりどんどん薄れていった男尊女卑の願望」にしがみついてる
だけですよ!

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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