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高森明勅
2018.8.27 18:41皇室

大嘗祭への公費支出

毎日新聞デジタルの記事
(8月25日午前6時30分配信)に以下のようにある。
 
「来年5月に即位する新天皇が五穀豊穣を祈る
皇室の行事『大嘗祭』について、秋篠宮さまが
『皇室祭祀に公費を支出することは避けるべきではないか』
との懸念を宮内庁幹部に伝えられていることが関係者への取材で判明した」と。
 
些かビックリするようなニュースだ。
 
情報源は「関係者」。
 
この人物がどのような位置にいるのか。
 
秋篠宮殿下が“懸念”を伝えたとされる
「宮内庁幹部」本人なのか。
又はその周辺か。
それとも…。だが、この記事には不正確な記述が目立つ。
率直に言ってお粗末過ぎる。
 
例えば、大嘗祭は「五穀豊穣を祈る」祭りでは“ない”。
それは、この祭儀が行われる“時期”を見れば、素人でも一目瞭然だ。
大嘗祭が行われるのは11月。
既に収穫が終わった“後”。
今更「豊穣」を祈ってどうする?
 
これまでの政府答弁では、
「五穀豊穣を感謝し、また、国家、国民のために安寧を祈願する」
祭りとされている(平成2年4月17日、衆院内閣委員会、宮尾盤宮内庁次長答弁)。
 
豊穣を(これから与えてくれるように)“祈る”のと、
(既に与えられた)豊穣を“感謝する”のでは、全く異なる。
 
余りにも初歩的な無知を晒している。
 
とても宮内庁「関係者」に取材した記事とは信じられない。
 
又、大嘗祭は歴史的に、通常の「皇室祭祀」という
カテゴリーを超えた、国家的・国民的祭祀だ
(詳しくは拙著『天皇と民の大嘗祭』参照)。
 
だから近代の皇室制度でも、
大嘗祭は「皇室祭祀令」(明治41年)には収められて“いない”。
 
そうではなくて、皇位継承儀礼について定めた
登極令(明治42年)に収められているのだ。
従って、大嘗祭を他の皇室祭祀と一律に扱えないのは、当たり前。
 
こんな基礎的な知識を、やがて皇嗣となられる秋篠宮殿下が、
まさかご存じないとは想像し難い。
 
憲法の政教分離原則との関係も、
既に平成の大嘗祭の時に整理が終わっている。
 
「大嘗祭は…皇位が世襲であることに伴う、
一世に一度の極めて重要な伝統的皇位継承儀式であるから、
皇位の世襲制をとる我が国の憲法下においては、
その儀式について国としても深い関心を持ち、
その挙行を可能にする手だてを講ずることは当然と考えられる。
その意味において、大嘗祭は、公的性格があり、
大嘗祭の費用を宮廷費から支出することが相当であると考える」
(平成元年12月21日、政府見解「『即位の礼』挙行について」)
 
「大嘗祭と申しますのは宗教上の儀式としての
性格を有すると見られることは否定できないところでございますが…
その挙行のために必要な宮廷費の支弁による費用の支出といいますものは、
この大嘗祭の公的な性格という面に着目いたしまして支出するものでございますので、
国がそのような観点に着目してそのような限りで財政的なかかわりを持ちましても、
その支出の目的が宗教的意義を持たない、そしてまた特定宗教への援助、
助長等の効果を有する行為であるということは、到底言えないと思います」
(平成2年4月17日、衆院内閣委員会、大森政輔内閣法制局第1部長答弁)
 
「大嘗祭に宗教的意義を認めて援助するわけではない。
たとえば東大寺の仏像(の改修)でも、
仏像は宗教的なものだが、文化財としての側面に注目して公金を支出している。
これと性格は同じではないが、大嘗祭の公的側面に着目して公金を支出するという
ことだ」
(平成元年12月22日、多田宏内閣首席参事官)
 
憲法が皇位の世襲継承を要請している(第2条)以上、
皇位の世襲継承に伴って挙行されるべき伝統的な皇位継承儀礼は、
それ自体、憲法が予想し、要請するものと言うべきだ。
 
その意味で、大嘗祭を含む伝統的な皇位継承儀礼は
全て、明らかに「公的(国家的)性格」を持つ。
 
ならば、その挙行に公費が支出されるのは、当然。
 
秋篠宮殿下ご自身が、その理義について十分、
理解されてないという事も、考えにくい。
 
今回の毎日新聞の記事は、
さすがに全て捏造という事はあり得ないだろうから、
伝言ゲームと同じように、秋篠宮殿下のご真意が歪んで伝わったのか。
 
それとも、何らかの悪意ある情報操作か。
 
いずれにせよ、情報源たる「関係者」か、
その人物に取材し記事を書いた記者か、
又はその両者が、大嘗祭について驚くほど
無知である事だけは確かだ。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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