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高森明勅
2018.12.14 12:41皇室

天皇・皇后両陛下が最もお好きな万葉歌は?

わが国最古の歌集、万葉集。
 
柿本人麻呂や大伴家持をはじめ名歌も多い。
 
それらの中で、天皇・皇后両陛下が
最も好まれている歌は何か?
 
勿論、普通ならそんな事は分かる訳がない。
 
ところが、果敢に両陛下に直接、
その事をお尋ねした勇者(?)がいる。
女優の檀ふみさんだ。
 
彼女が平成21年1月から始まった
NHKの番組「日めくり万葉集」の朗読を
担当していた頃、何と両陛下からお召しがあった。
 
それで御所に参上した折に、
上記の件をお尋ねしたという。
 
以下、ご本人の文章から。
 
「思い切って、両陛下にそれぞれ万葉集のなかで
もっともお好きな歌をうかがうと、美智子さまは
天皇陛下のほうに視線を送られました。

陛下は『うーん』と少しだけ間を置かれ、
東(ひむがし)の野に炎(かぎろひ)の立つ見えて
反(かへ)り見すれば月傾(かたぶ)
きぬと、小さく歌うように朗唱されたあと、
『むかしは野を“ぬ”と言ったけどね』
 
と付け加えられたのです。
 
私も大好きな歌です。
美智子さまはお好きな歌がいくつもあって
なかなか絞りきれないご様子でしたが、
次の2首を挙げられました。
 
たまきはる宇智(うち)の大野に
馬並(な)めて 朝踏ますらむ
その草深野(くさぶかの)
 
天(あま)の原振り放(さ)け
見れば大君の 御寿(みいのち)は
長く天(あま)足(た)らしたり
 
…いずれも天皇をお慕いする歌ですし、
とりわけ『たまきはる』は、昭和34年のご
成婚前日に歌われた、たまきはるいのちの旅に吾(あ)を
待たす 君にまみえむあすの喜び
を思い起こさせます」
(同氏「神々しいお2人との対面」より)
 
万葉歌から即座に皇后陛下の
ご独身時代の御歌(みうた)を連想するなんて、
普通の万葉ファンにはとても出来ない。
 
檀さんも、日本文学史上に名をとどめる、
かの檀一雄(かずお)の令嬢だけあって、
人並みでない才女だと分かる。
 
「東の」は柿本人麻呂の作で、余りにも有名。
 
「東の野辺に曙(あけぼの)の光がさしそめて、
振り返って見ると、月は西空に傾いている」
(伊藤博氏『万葉集釈注』、以下同)
といった意味になる。
 
雄大な光景だ。
 
直球でこの歌を選ばれる辺り、
いかにも「国民統合の象徴」たる
陛下らしいと申すべきか。
 
「たまきはる」の作者は間人皇女
(はしひとのひめみこ)。
但し実作者は、皇女に仕えた間
人連老(はしひとのむらじおゆ)とも。
 
意味は「たまきはる宇智の荒野(あらの)で、
この朝、我が大君は、馬を勢揃いして、
 
今しも踏み立てておられるのだ、
ああ、その草深い野よ」。
 
紛れもない天皇讃歌。
 
「天の原」は倭姫王(やまとひめのおおきみ)
詠まれたもの。
 
「天の原を振り仰いではるかに見やると、
我が大君の御命は、とこしえに長く天空
いっぱいに充ち足りていられます」
 
切なる祈りの籠った歌だ。
 
陛下を最もお側近くでお支えする「皇后」
であられ、かつ現代最高の歌人のお1人とも言える、
皇后陛下ならではの選歌ではあるまいか。
 
檀さんの蛮勇(?)に感謝。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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