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笹幸恵
2019.5.13 12:53皇室

有本さん、キャリア女性のパイオニアだったはずなのに。

バブルを謳歌した世代の有本香さん。
また、男女雇用機会均等法が施行され、
名目上は女も男と同じように働けるようになり、
そのパイオニアとして男尊女卑の荒波を
乗り越えてきた世代の有本香さん。
私はそれからおよそ10年後に社会に出たけれど、
それでもまだまだ女性蔑視の風潮はあった。
「女の子だから」という扱いなんか、数知れず。
「新人だから」ではない、「女の子だから」だ。
また嫁に行くことへのカウントダウンを、
「25過ぎたらクリスマス、30過ぎたら大晦日」
などと言われて、
女だけがことさら年齢と結婚について
あれやこれやと言われることにうんざりしていた。
なんだよ、31歳になったら女は価値がないとでも?

私の世代ですら、それだ。
有本さんの世代なら、もっと風当たりが
強かっただろうことは想像に難くない。
女だからとナメられないように、誰よりも
チベット問題に深く関わり、理論武装し、
その知見と理路整然とした語り口は力強く、
誰もが一目置くものだったと私は思っている。


ところが、なんだ?
今では自称保守論壇ムラの都合のよい扇動係に
なり下がってしまったではないか。

「皇統とは男系の血筋である!」
「女性、女系天皇はデタラメ!」
「女系天皇は政治レトリック!」
「女系に天皇の血統はない。目を覚ませ!」
(【有本香の以毒制毒】より抜粋)


ご本人はこれを「伝統」だと無邪気に
信じているようだけれど、ちょっと勉強すれば
そうではないことはすぐにわかる。
百歩譲って、たとえ勉強しなくても、
常識的な感覚を持っていれば、いかに
その主張が奇異なものか、自覚できるはずだ。

女性は天皇にはなれない。
内親王は女性宮家を立てられない。
これを男系原理主義者は「男尊女卑ではない、
むしろ民間の男が皇室に入れないのだから、
女尊男卑だ」というけれど、詭弁もいいところ。
女性が、女性というだけで「○○ができない」、
あるいは「○○ができないとみなされる」、
そのこと自体がアナクロな女性蔑視の感覚なのだ。

有本さんは、「女だからまともに仕事ができない」と
いうオッサンの思い込みに抗ってきたはずだ。
「どうせ結婚したら辞めるよ」
「女に社会問題なんか、わからないよ」
そういう無意識の感覚とも戦ってきたはずだ。
そうした思い込みの根底にあるのは、
女は主体的に物事を考えることができない
(=男に支配され、言うがままになる)という
蔑視感情だ。

女性宮家を立てて、そこに男性が婿入りすることを
男系原理主義者が何やかやと理由をつけて
否定するのは、女は男に支配されるものだという
感覚が脳髄までしみ込んでいるからにほかならない。
宮家が民間の男に乗っ取られると思っている。
女尊男卑どころか、もはや手の施しようがないほど
男尊女卑の塊、権化、
要するにゴリゴリの差別主義者なのである。

自立した女なら、そこに怒りを覚えなければウソだ。
男はいつだって支配者で、女は被支配者?
あまりに女をバカにしているではないか。

ちなみに今より男尊女卑の傾向が強かったであろう
戦時中や戦後すぐの頃だって、家を存続させるため、
お婿さんを迎えた例はいくらでもある。
戦後、復員して苗字が変わった元兵士たちは多い。
当時の私は、ひそかに、「この人、本名のままでは
シャバで生きていけないくらい、戦地で
暴れまわったのだろうか・・・」などと
とんでもない思い違いをしていた。

よくよく話を聞いてみれば、当時の兵隊さんは
農家の出身が多く(というか農民そのものが多かった)、
次男三男ともなればいずれ家を出て、
食い扶持は自分で何とかしなければならなかった。
一方、男を兵隊にとられ、女しか継ぐ人がいない
という家もたくさんあった。
復員した兵士たちは、こうした家の娘と結婚し、
その家の稼業を継いだのだ。
そのとき、婿にこの家を乗っ取られると思った
舅姑は果たしていただろうか。

男系とか女系とか、血統なんか念頭にない。
庶民は家を存続させるための知恵として、ごく自然に
婿さんをもらっていたのである。
また婿入りした男性も、その家の苗字を名乗り、
その家の人間として老後を過ごしている。
(そして夫婦仲睦まじく暮らしている)。


女性宮家に民間の男性が入れば、その男に乗っ取られる
などと、時代錯誤どころか被害妄想の域だ。
女性皇族を何ら信用していない証でもある。
男系原理主義者よ、そんなに上から目線で
女に教え諭したいか?
女は何も考えていない、主体性のない生き物か?
というか、男である自分は、そんなに偉いのか?
自分が努力して得たものでも何でもないくせに。

皇室と庶民の事情は違うなどと言うかもしれないが、
何がどう違うというのか。
血統こそ原理だ!と言い続けて庶民感覚と乖離し、
国民と寄り添う天皇の主体性を無視しているのは
どちらなのか。
血統がそんなに大事か?
男の血がそんなに尊いか?
血を絶対視するなど、男尊女卑を飛び越えて
もはやカルトだよ?
どんなに大量に輸血したって、その人はその人。
別人になるわけじゃないでしょうが。

あまりにバカバカしいアナクロおじさんの主張を
鵜呑みにし、あろうことか根強く残る
女性蔑視感情に賛成し、その旗振り役を
しているのが有本さんだ。

有本さん、アナクロ名誉男性の地位を確立したね。
あなたの今の主張を、荒波を乗り越えていた
20~30代のあなたが見たら、何て言うだろうね。
それとも所詮、キャリアウーマンとしての
途を切り開いてきたって、そんなのポーズだけで、
なんの覚悟もなかったのかな。

結局のところ、自分に負けたのですね。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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