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笹幸恵
2019.7.11 15:12日々の出来事

憲法13条が「自衛権」???

古くからの知り合いである元海上自衛官の伊藤俊幸氏が、
『祖国と青年』という雑誌(7月号)に
「既に日本は『侵略者を排除できる国』」として
憲法についての講演録を載せている。
一読して「?」マークがたくさん出てきた。

そもそも憲法9条が、「自衛権まで否定していない」と
いう解釈は、13条から読み込めるとしている。

憲法第13条
すべて国民は、個人として尊重される。
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、
公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、
最大の尊重を必要とする。

これは木村草太説そのままだ。
伊藤氏は13条が「自衛権」だとまで述べているが、
どう考えてもおかしいだろう。
そもそも13条は戦力についての規定ではないし、
他の条文で、また別の条文の規定(=戦力の不保持)を
例外的に解除できるなんて、あまりにも乱暴な解釈だ。
9条を削除したくないあまり、無理やり捻りだした理屈で
少しも得心しない。

また「自衛のための必要最小限度の実力」とは、
「他国に行ってまで戦わない」という意味であり、
それを決めたのはアメリカではなく日本政府だったからこそ
今の自民党は「その解釈を変えて自衛隊を軍隊にしろ」とは
言えない、自己撞着を起こすから、と説明している。

これも説明になっていない。
というか、論点はそこではない。
だいたい「他国に行く」=侵略するのが「軍隊」で、
そうでないのが「自衛隊」なの?
軍隊にすれば、即座に他国を侵略するの?
すでに国際法上、侵略のための武力行使は禁止されている。
それより問題なのは、どうにでも取れる曖昧な文言のほうではないか。
伊藤氏は「必要最小限度」という曖昧な基準で、
なおかつ「戦力」を「実力」と言い換えただけのゴマカシを
少しも疑っていない。
そこ、曖昧なままでよいの?
必要なのは、自衛隊をきちんと戦力と位置付けた上で、
それをどう規定していくか、ではないの?

さらに、ここからが本題なのだけど、
日本は武力攻撃事態対処法(2003年)が制定された時点で、
武力で敵を排除できる国になっていると言う。

そしてこう結論づける。
「日本は既に、国を守るために『戦える国』に
なっています。そのことをきちんと踏まえて
議論しないから、『九条二項を削除するのか、しないのか』
などと議論がブレてしまう。そうではなく、
憲法への自衛隊明記によって、自衛隊について
義務教育でも教えることになり、国民が何も知らない
ということがなくなるのです」
(中略)
「だから安倍総理は、『自衛隊員が誇りを持って
任務を全うできる環境を整える」と改憲の意味を
解いているのです」

9条2項は、議論がブレているどころか、本家本丸だろう。
伊藤氏は、もうすでに「戦える国」なのだから、
9条云々なんか放っておいて、憲法に自衛隊を明記すれば
万事解決、と言っているようなものだ。
本質をわかっていないのはどちらなのか。
伊藤氏の論理だと、日本は立憲主義国家でなくていい、
ということになる。
そのくせ、憲法に自衛隊を明記すれば誇りが取り戻せると
思っているのだから、倒錯している。

しかも自衛隊を明記することによる効果は、
義務教育で教えることって・・・それだけ?
あまりに説得力に欠ける。

自衛隊をきちんと軍隊として位置付けることが大前提。
伊藤氏の言うように、日本がすでに「戦える国」に
なっているのなら、なおさらではないか。
その上で、どうコントロールしていくか、法整備も含めて
考えなければならない。
憲法に自衛隊を明記したところで、何も変わらない。
9条2項に正面から向き合わない憲法論議は、
どんなに理屈をこねくり回してそれっぽく聞こえても、
結局は欺瞞に過ぎない。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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