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高森明勅
2019.8.4 06:00政治

「政府関係者」の迷走

人々はどれだけ覚えているだろうか。

平成28年7月13日にNHKが上皇陛下が「ご譲位」を望んでおられるとの
スクープを放った翌日、日本テレビがご譲位を可能にするには憲法改正(!)
が必要とする「政府関係者」(恐らく杉田和博内閣官房副長官だろう)
の見解を報じた事実を。
これは余りにもお粗末だった。

改めて言う迄もなく、憲法は皇位が「世襲」である事のみを定め、
継承の具体的な在り方は「国会の議決した皇室典範」の規定に全面的に委ねている(2条)。
従って、“皇位世襲”の大原則を変更するのでない限り、憲法改正は無用。
ご譲位を可能にするのは、皇位継承の“在り方”について、従来は「終身在位」のみ
だったのを変更するに過ぎない。
だから勿論、皇室典範の改正だけで十分に対応できる。

又逆に、典範を改正しなければ対応できない。
私は7月15日、BS日テレの「深層ニュース」に出演した。
その時に、上記の説明をして「憲法改正なんて必要ありません。
今は首相官邸が混乱しているのでしょう。
いずれ必ず訂正されますよ」と断言して、その通りになった。

皇室典範特例法に典範との一体性を確保する条文(附則3条)が
わざわざ挿入されたのも、憲法が典範を“名指し”して委任しているからだ。
その間、憲法改正が必要と言っていた舌の根も乾かないうちに、
「政令」だけで対応できる、などと言い出した場面もあった。
政令は政府(内閣)の命令。
閣議決定だけで制定でき、法律の下位(!)に位置付けられる。
法律の規定を前提に、それを実施する為のもの。
ならば、法律である典範に“終身在位”(4条)しか規定していない以上、
政令一本でそれを覆せるはずがない。
もしそんな事が可能になるなら、法律を作る意味が無くなり、
国会は全く形骸化して、政府は万能になる。
天皇陛下すら閣議決定(つまり首相の一存)だけで
“クビ”にできる、という恐ろしい発想だ。

「政府関係者」のこんな迷走ぶりを改めて思い出したのは理由がある。
先日(7月27日)の読売新聞のトップ記事を読んで、
その迷走ぶりが相変わらず“健在”なのに、
眉を顰(ひそ)めざるを得なかったからだ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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