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笹幸恵
2019.11.21 15:36皇統問題

続・理想の皇室像を押し付けているのは誰か?

『SPA!』11月26日号の倉山満氏の記事について、
まだ書いておきたいことがあるので、続編。

前回のブログ
「理想の皇室像を押し付けているのは誰か?」
では、先例原理主義に陥っている倉山氏の
傲慢っぷりと矛盾について記したのだけど、
今回はそれを踏まえて、女性宮家のあり方と
氏の驚くべき「皇室観」について指摘したい。


倉山氏は、女性宮家創設を、先例について云々しつつ、
こう断言している。
「何が何でも女性宮家を創設しなければ
ならない理由は、無い」
その理由は、内親王が皇籍を離脱しても
ご公務は続けられるから。したがって
「皇族の減少に際し、ご公務軽減の為」
に女性宮家を創設するという大義名分は
成り立たないという。
その例として、黒田清子さまが伊勢神宮の
祭主をおつとめになっていることを
あげているのだけれど、ミスリードだ。
そもそも民間人となられた方のおつとめを
「ご公務」というのはおかしいだろう。
皇族の方々が現在担っているご公務と、
清子さまが祭主をおつとめになっていることは
全く質の違う話で、同列に扱うべきではない。
倉山氏はご公務の意味を理解していないか、
あるいは理解していても軽視しているか、
そのどちらかだ。

さらに、「女性宮家創設は、皇位継承とは
何の関係もない」と続けている。
しかしその説明がまったくわからない。

女性宮の配偶者(民間人)は准皇族の身分で、
敬称は殿下で、殿下と呼ばれていた例として
豊臣秀吉がいて……。
なぜここで秀吉???
読者を煙に巻いているような印象を受ける。

で、よくわからないまま、女性宮家の子は
皇族になれない(天皇になる資格はない)ので、
皇位継承とは何の関係もない、と記す。
ただし「女性宮の子供が皇族になる方法」
として、「(男性)皇族と結婚した場合」をあげている。
だから旧宮家の復活、というロジックとなる。

少々ややこしい説明ですけど、ついてきてくださいよ。

なんだか人を騙すみたいな書き方をしているのだ。
これができない、あれができない、と言っておいて、
「でもこれならできますよ」と提示する。

けれども、普通に読んでいると、
「なんでそこまで女は無視されるの?」
という素朴な疑問しか湧いてこない。
要するに「男系の血統が大事なのだから、
女性宮家創設は無意味」ということなのだ。

言うまでもないことだが、現在の女性皇族より、
旧宮家(民間)の男性のほうを重んじている。
だから男尊女卑といわれるのだ。

これって、倉山氏が批判している男系原理主義者と
何が違うのだ?

理屈をこねくり回せば、正当な意見になるわけではない。
いくら理屈を並べたって、結局のところ、
男系の血統を信奉しているだけ。
男系の血統とは何か。
突き詰めたら、Y遺伝子にいくしかない。

倉山氏は皇族どうしの結婚は無数の先例が
あるとして、それをあたかも絶対に正しいこととして
「男女平等」の価値観を持ち込もうとする者を
批判するけれど、自分が嫌だなと思うことを皇族になら
平然と強いることができるその感性とは一体なんなのか。

挙句、秋篠宮殿下が皇太子ではないので
祭祀の継承ができない、との主張に対して、
大嘗祭や伊勢の式年遷宮が途切れた歴史も
あるとして、
「祭祀は重要だが、絶対ではない。
最も大事なのは、皇室の存続だ」
と書いている。
開いた口が塞がらない。
血統さえ先例にならっていれば(男系であれば)、
ただそこにいればいい、と言っているようなもの。
天皇は祭祀だけやっていればいい、と
いう者より悪質ではないか。
天皇が国民の象徴としてそこにある、
ということが、どういう意味なのか、
考えたことがあるのだろうか。


そしてこう締めくくる。
「いつの時代も、皇室を守ろうとする
国民の努力が続いてきたから、歴史は
続いてきたのだ。だから、先例に学ぶ
姿勢が必要なのだ」

「だから」の接続詞も完全にミスリード。
あたかも先例が国民の努力の結晶であるかの
ように書いているのだけど、違うだろう。
その時々の天皇やその周囲が知恵を絞って
維持してきたのではないか。
時代が変わり、今は国民の象徴として天皇がいる。
今の天皇と皇室のあり方を国民は受け入れ、
存続させたいと願っている。
だから、女性宮家の創設を望むのであり、
多くの国民が女性天皇、女系天皇を受け入れている。

皇室を守ろうとする国民の努力を
阻んでいるのは、いったい誰か。

ちなみに記事の前半で、倉山氏は
先例を批判する者に対し、こうかみついている。
「現代で多数派の価値観を持ち出せば、誰もが
黙るとでも思っているのか?
ずいぶんと傲慢な議論の態度だ。
結局、皇室を自分の考えた形に作り変えたい
だけではないのか?」

もう一度問う。
理想の皇室像を押し付けているのは、いったい誰か。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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