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笹幸恵
2019.12.23 02:59皇統問題

「よくわかる皇位継承論のツボ」について〈その3〉

『WiLL』2月号の「よくわかる皇位継承論のツボ」
について、さらに触れておきたいことがあるので、
続ける。

1本目は小林先生とケント・ギルバート氏。
https://www.gosen-dojo.com/blog/24695/

2本目は百地章氏と竹内久美子氏(Y染色体と男系の欺瞞)。
https://www.gosen-dojo.com/blog/24705/

今回は、百地氏と竹内氏の支離滅裂ぶりについて。
対談の中盤、百地氏は女系天皇や女性宮家の創設に
反対の意見を述べる。
それに対するやりとりは以下のとおり。

竹内 具体的な例をあげると、小室圭さんのような
素性のよくわからない民間人男性が皇室に
どんどん入ってきてしまう恐れがある。
百地 現代における蘇我氏が登場するかも
しれません(以下略)。
竹内 蘇我氏は娘を天皇の后とし、その生まれた子を
天皇にさせて外戚の地位を得て権勢をふるいました。
そんな存在を現代に復活させてはいけません。

まずもって、現在の天皇のお立場がわかっていない。
蘇我氏の頃とは違い、天皇に権力はない。
したがって外戚となった人間が権勢をふるう
などというのは時代遅れも甚だしい妄想である。
いったい二人は何時代に生きているのか。

さらに、小室さんと蘇我氏を同一視するのはおかしい。
女性宮家が創設され、小室さんが眞子さまと結婚なさった場合、
小室さん自身は眞子さまのお婿さんになるわけで、
娘を天皇に嫁がせようとしているわけではない。
なぜ蘇我氏と同列に語るのか、全く理解不能。
ただ無駄な恐怖を煽っているだけにしか見えない。

この流れで、百地氏は次のように続けている。

皇室にとって一番大切なのは宮中祭祀です。
天照大御神と歴代天皇をお祀りし、
国家と国民の安寧を祈ることが基本です。
そこに外部の人間が次々と入り込んでしまったら、
皇室の祖先が誰なのかさえアヤフヤに
なってしまいます。

これは、男性が皇室に入ることを否定したいから
言っているのだろうけど、誰も女性天皇が民間人男性と
結婚したら王朝が変わる、などとは思っていない
(男系原理主義者以外は)。
だから皇室の祖先がアヤフヤになることはない。
美智子さまや雅子さまが民間から嫁いでも
皇室の祖先がアヤフヤにならなかったように、
いくら民間の男性がお婿さんとして皇室に入っても
アヤフヤになどならないのだ。

そもそも、蘇我氏の例を取り上げるなら、
娘を皇室に嫁がせた正田家や小和田家が
権勢をふるっていなければおかしい。
そうした事実があってはじめて蘇我氏の例は
説得力を持つ。
しかしそんな事実は全くない。
そして蘇我氏の権勢を警戒する二人が
美智子さまや雅子さまを批判しているかと
いうと、そんなことはない。
むしろ百地氏など、「上皇后陛下や皇后陛下を
見ればおわかりのように、民間から皇室に
入られても立派な皇族となり、皇后になられている」
と称えている。
蘇我氏の再来などあり得ないと自分で
言っているようなものだ。
語るに落ちる、とはまさにこのこと。
自分で何を言っているか、この人は本当には
わかっていないのではないかとすら思う。

そもそも自分たちの都合のいいように
物事を勝手に解釈しすぎなのだ。
小室さんについては蘇我氏の例を出して
「外戚が~」とか「祖先がアヤフヤに~」とかいう。
けれど旧宮家の男系男子の皇籍取得に関しては、
美智子さまや雅子さまの例を出して、
最初は違和感があっても、年月が経てば
多くの国民は「さすがだ」と感嘆するはず、
などと言っている。

違うだろう。
もし女性天皇や女系天皇が実現し、また女性宮家が
創設されたとして、そこに婿入りする男性がいたら、
国民は彼を美智子さまや雅子さまのように受け入れる。
なぜなら「あの内親王が見初めた方」だからだ。
プリンセス物語ならぬ、プリンス物語ができあがる。
これが自然な庶民感覚というものだ。
一方、男系の血だけをよりどころにして、
それまで一般人だった男性をいきなり皇族にして
国民の前に立たせたところで、戸惑いしかない。
彼がどんな人なのか知らない。
生きてきた人生を知らない。
男系の血だから?
2600年の伝統を背負っているから?
いくらY染色体を持っていると言われたところで、
はいそうですかと納得する人はどれほどいるか。
もはや国民は、皇室との紐帯を感じられなくなる。
それは、ひたすら国民に寄り添ってこられた上皇陛下の、
人生をかけたなさりようを無にすることでもある。


もう一つ矛盾を付け加えておきたい。
百地氏は、男女平等とか差別といった今の価値観に
惑わされてはいけない、という。
一方、竹内氏は、女性天皇が誕生した場合、
生涯独身を貫くなど子を産まないのが常識だったが、
今は人権の問題からそうはいかないと述べている。
え、どっちなの。
取り入れたらダメなの?
取り入れないとダメなの?
ここでもご都合主義が発揮されている。
で、なぜ人権の問題を取り入れるかといえば、
未来のお婿さんに対して警鐘を鳴らしたいからだ。
「蘇我氏が来るぞ~~~」って。
いや、だから蘇我氏はお婿さんじゃないって。

さらにお婿さん問題について、百地氏はこう語っている。
「中国や韓国あたりが策謀してイケメン男子を近づけて、
皇室に入り込むなんてことも考えておかないと(笑)」

私が男系派にゲンナリするのはこういうところだ。
ケント・ギルバート氏もそうだったけれど、
「女はイケメンにコロッと騙されるんだろ?」とでも
言いたげな、女に対する無理解と軽蔑がそこに
確実に内包されている。
彼らが、悠仁さまのお嫁さん問題について、
「中国や韓国あたりが策謀して美女を近づけて、
皇室に入り込むなんてことも考えておかないと(笑)」
と言っているならまだ筋は通る(下品だが)。
しかし寡聞にして知らない。
女だけが、男に騙されると思い込んでいるのだ。
それはすなわち主体性がないと内心でバカにしているからに
ほかならない。
これを男尊女卑といわずして何というのか。

対談というのは、ほんとこわいね。
文章を練って書くのとは違い、本性があらわになる。
もっとも校正ゲラを回しているはずだと思うけど。
自分の支離滅裂ぶりに気づかないのは、もっとこわい。

まだあと論点が二つ残っている。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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