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笹幸恵
2020.3.5 18:33日々の出来事

田嶋陽子氏の『アーロン収容所』観にたまげた。

先日の打ち合わせのとき、もくれんさんが
フェミニズムについて勉強中だとして
田嶋陽子氏の本を紹介してくれた。
『愛という名の支配』という本。
最近、田嶋氏は人気が出ているらしい。
というわけで、内容が知りたくて
私も読んでみました。

まだ途中。
母娘の確執というか、幼いころの
苦しい記憶は何となく共感できるのだけど、
その先はいきなり話が飛躍しまくるので、
なかなかついていくのが難しい。
驚いたのは、私の愛読書『アーロン収容所』が
本書に登場していること。
のみならず、ものすごい曲解していること。

捕虜収容所で女兵舎の掃除洗濯をするシーン。
ここでメインに描かれていることは、
イギリス人は日本人を人間として見ていない、
ということだ。
だから日本人がノックする必要はないし、
女性たちは裸のままでも平気でいる。
牛や馬に恥ずかしがる女がいないのと同じである。

それなのに田嶋氏は、ここで記された
「職人気質の元兵長がイギリス女に下着を洗えと
命令されてブチ切れた」というエピソードだけを
引っ張って来て、ほら、やっぱり女性差別じゃないか
と言う。
女たちは朝昼晩、女だからという理由だけで
炊事洗濯をやっているのだから、
収容所にいるのと同じ屈辱をなめている、
というわけだ。

いやいやいや、そこ違うから!
確かに元兵長は「のみ」と「かんな」しか
持ったことがなくて、洗濯さえもがこの上ない屈辱
なのだけど、多くの元日本兵たちは黙々とやっている。
彼らが腹を立てているのは、足で指図したり、
煙草を投げてよこしたりして、自分たちがまるで人間として
扱われないことなのだ。
癪に障るのは、下着を洗わせることではなくて、
その態度だとはっきり書いてある。

確かに当時の価値観からすれば、
女は男より一段下で、嫁は家事を担う労働力としてしか
見られていなかったかもしれない。
だからなおさら、兵士たちは屈辱を感じた。
その前提はあるだろう。
けれど『アーロン収容所』のこの部分は、
もっと大きなテーマを扱っている。
彼女が本書から読み取ったのが
元兵士たちの女性蔑視感情だけだったというなら、
なんと貧困な読解力かと言わざるを得ない。
第一、差別を憎むなら、日本軍兵士の蔑視感情より
イギリス女の日本人に対する差別を怒らなきゃ筋が通らない。

この本に通底するテーマとは何の関係もない
ワンシーンだけを切り取って、さらにそれを
鬼の首でもとったかのように「ほら、こんなところにも
女性差別が!」といわれても、違和感だけが募る。
そういう本じゃないんだよ~~~!

いや、まだまだ途中だ。
ちゃんと最後まで読もう・・・。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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