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高森明勅
2020.5.22 06:00皇室

貴賤を論ずるな

継体天皇の即位を巡って、日本書紀は印象的な
エピソードを伝えている。

朝廷の馬の飼育や管理に携わっていた、河内馬飼首荒籠
(かわちの・うまかいのおびと・あらこ)の活躍だ。
身分は至って低い。
しかし、継体天皇の即位に当たり、決定的な役割を果たした。
その功績を、当人の身分の低さに拘(こだわ)らず、特筆大書したのだ。
この一点からも、日本書紀編者の見識の高さを窺うことが出来よう
(日本書紀には、このような人物が何人か、わざわざ取り上げられている)。

北陸の三国(みくに、今の福井県)におられた継体天皇
(男大迹〔おおど〕王)は、朝廷から即位を要請されながら、
その真意を疑い、要請に従うのをしばらく躊躇(ためら)っておられた。
そこで、かねて継体天皇から信頼を得ていた荒籠が使者を派遣し、
実情を伝えさせた。
その結果、疑念は解消し、恙(つつが)無く継体天皇の即位が実現した、
という経緯だった。
その際、荒籠は「密かに」使者を派遣した、と日本書紀には書かれていた。

この記述に注意する必要がある。
恐らく荒籠の行為は、当時の身分感覚や朝廷の仕組みからして、
“出過ぎた”振る舞いだった可能性がある。
だからこそ、“人に知られないように”事を運んだに違いない。
それは荒籠にとって、リスクを伴う行動だったはずだ。

しかし、継体天皇ご本人の為にも、朝廷全体の為にも、
事態を黙って見過ごすことは出来なかった。
たとえ自分に、不利益や危害が及ぶ可能性があっても、「公(おおやけ)」
の為には行動に踏み切らざるを得なかったのだろう。
ここに荒籠の気高い公共心を見ることが出来る。
即位後、継体天皇は荒籠に対し、次のようにお褒めになった、
と日本書紀は伝えている。

「世(よのひと)云(い)はく、『貴賤(とうとくいやしき)を
論(あげつら)ふこと勿(なか)れ。
但(ただ)其(そ)の心をのみ重(おも)みすべし』といふは、
蓋(けだ)し荒籠を謂(い)ふか」(世の人が『身分の貴賤を
論ずるな。
ただその心が誠実であるかどうかだけを重んじよ』と言うのは、
思うに荒籠のような者のことを言うのだろう)と。
天皇から戴く、殆ど最高のお褒めのお言葉だろう。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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