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高森明勅
2020.6.26 06:00政治

国民の「4つの立場」

『新しい公民教科書』の代表執筆者で
大月短期大学名誉教授の小山常実氏。

国民には、国家の政治との関係で、「4つの立場」がある、と整理しておられる。①政治に参加する立場。②政治に従う立場。③政治から利益を受ける立場。④政治から自由な、自主独立の立場。至って妥当な整理の仕方だろう。まず①は、国民が“公共の精神”を持って国家の政治に参加すること。
これは民主主義国家において当然だろう。
国民は参政権を持ち、国会議員など自分たちの代表を選ぶことができるし、
自ら議員になって政治を行うこともできる。
その他の政治活動も自由にできる。

次に②は、①を前提に、民主主義のルールにのっとって、
法律や政治上の決まりが定められた場合、それに従わなければならない
ということ。
これは、法律が実際に機能し、社会の秩序を維持する為に、
欠かせない条件だろう。
例えば納税の義務など。
もし、その中身に不満があれば、①の立場で作り直せば良い。

③は、政治は国民の利益の為になされるべきなので、当然に予想される。
国民は公共の福祉を享受し、自由と権利が侵された時は、
これを保障するように政治に求めることができる。
更に、人間として生きて行く為に、社会保障など必要な援助を
政治に求めることができる。

①②は、結局、③の為のものと言える。
逆に、①②を欠いて、③だけを求めるのは、無理だろう。

④は、政治から離れて、もっぱら個人として(他人の自由・権利を
侵害しない範囲で)自由気ままに振る舞うこと。
これも見落とせない大切な点だ。
もし、④を一切認めないとすれば、それこそ恐らく“最悪”の政治
ではあるまいか。

このように見ると、上記の4分類は、実によく考えられた整理だろう。
ところが、文部科学省に『新しい公民教科書』の検定申請をした際に、
これら4つの立場のうち、②だけは絶対に認められないとして、
記述の削除を余儀なくされたという。

にわかに信じがたいが、②は民主主義に反するとでも“早合点”したのか。
余りにも幼稚な、もしくは偏った検定態度と言わざるを得ない。

②は、民主主義的な「決定」が実際に「効力」を持つ為に、
どうしても欠けてはならない“要件”だろう。
そもそも、民間の研究者や教育者が、自分たちで作成した教科書を
“わざわざ”文科省に検定申請すること自体、文科省が設定したルールに
(国民として)「従わなければならない(!)」からに他ならない。

もし、文科省が②を否定するなら、教科書検定制度自体、
その客観的根拠を失うはずだ(学校の設置基準や教員資格等々も同様)。
ひょっとして、その事実に気付いていないのだろうか。
文科省がこのような奇妙な検定を行っている以上、国民にとって重要な
意味を持つ②の立場は、国内のどこの学校でも(教師に優れた見識が
備わっていない限り)教えられない、という結果を招くはず。

これは由々しき問題だ。

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高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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