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泉美木蘭
2020.9.26 22:10

在宅緩和ケア、生きざまの世界はすごかった

今日は、以前たまたま著書を読んで、ずっと気になっていた
在宅緩和ケア専門の
医師の方の講演を聞いてきた。
最初は、高齢者の終末医療の話を想像していたけど、
21歳のヤンキーから、42歳の生涯独身バイカー女性、
子供たちをのこしていく母親、高齢者のお看取りまで、
あまりにも幅広く、

そして、間もなく死ぬことを自覚している人々が、
どんな風に、最後に「生きる自由」を謳歌する選択をしているか
ということを実際の患者と家族の映像で見せてもらって、
衝撃を受けた。

かなり末期に近いがんなどが発覚した場合、ほとんどが病院での
入院治療になり、自宅で死ねる人は1割ぐらいしかいないのが
日本の現状なのだそうだ。
でも、自宅で死ぬということを決めた人は、病院では許されない
ビール、タバコ、友達とのバーベキューなどを楽しんでいる。
もちろんそれは、やせ細った体をベッドに横たえた状態で、
健康な人のように飲み食いすることはまったくできないんだけど、
それでも、鼻に酸素チューブを入れながら、
「えっ、これ、飲んでもいいの?」
と言いながら、ビールを少し口にして、
「はああああっ、うまい・・・」
と心底から美味しそうな顔をして、げっぷを出している姿なんかを
見ると、この人、最後まで生きてるなあと思った。

長い入院生活をやめて、自宅に帰った男性も、帰宅すると、
「風呂に入りたい」と言って、久しぶりにのんびりお湯につかり、
そこで、人生ではじめて鼻歌を歌ったので家族が仰天したそうだ。
歌なんか絶対にうたわない寡黙な男性だったのに、これ以上ない
幸せそうな顔で風呂から出てきたらしい。
その人は、死ぬ前にお風呂にゆっくり浸かって、
至福の一時を味わいたかったのだ。

特に、私と同い年の独身女性は心に残った。
簡単に言うと不良で、仕事しながら、趣味で大型バイクを乗り回して
バイク仲間とツーリングを楽しんでいる人だったんだけど、
深刻な乳がんが発覚し、でも、私は不良のまま、最後までバイクを
乗り回して
死にたいんだという理由で、乳房を切除してまで延命
することは
望まなかった。
で、死ぬ2週間前まで、診察を受けるために緩和ケア医のところへ
バイクで乗り付けるというヤンチャでかっこいい映像が残っていて、
最後は深夜までバイク仲間たちとワイワイ騒ぎ、本人が形見分けを
済ませて、そして、直後に亡くなったそうだ。
自宅アパートの処分や、連絡先などもすべて書き残してあり、
しかも遺体は大学病院に検体として申し込みが済ませてあり、
おまけに、その大学病院まで遺体を搬送する車も自分で手配済み
だったという。

これは最後にどう死ぬか、という話よりも、
最後までどんな風に生きるのか、という話なんだと思う。

「死ぬ」というのは、恐ろしくて、苦しくて、悲惨で、最悪で、
あってはならないことかのようにイメージされている今の世の中は、
誰のもとにも100%、いつやってくるかもわからない死を、
とことん自ら遠ざけて、嫌って、無関心でいられるようにしておいて、
そのために余計に震え上がって恐れるはめに陥っている。
非常に間抜けな状態にはまっているんじゃないのかと感じた。

帰宅してテレビをつけたら、
「PCR検査で陰性だとわかって安心しました」
なんて言っているニュース映像が出ていたけど、
あまりにバカバカしくて、もう見る気がしなかった。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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