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高森明勅
2020.10.17 06:00皇統問題

「踏まえながら」という曖昧語

皇位の安定継承を巡って、これまで繰り返されて来た政府の答弁。

「安定的な皇位の継承を維持することは、
国家の基本にかかわる極めて重要な課題」

「男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえながら、
慎重かつ丁寧に検討を行っていく」

この答弁は男系派にすこぶる評判が良い。

しかし、これは“霞ヶ関文学”(官僚的用語法)の中でも
最高傑作の1つではないか。
先に、同答弁が、実は小泉純一郎内閣の時の「皇室典範に関する有識者会議」
の(女性・女系天皇を容認した)報告書に依拠している事実を、
指摘した。

特に、さりげなく挿入された「など」という語に潜む含意を、解明した。
政府関係で用いられる「など(等)」が一筋縄で行かないことは、
先頃の上皇陛下のご譲位を可能にした特例法に向けて、
政府に設置された有識者会議の名前が「天皇の公務の負担軽減“等”に
関する有識者会議」だった事実を思い出せば、よく理解できるはずだ。

しかし、上記答弁に隠された“仕掛け”は、それだけに留(とど)まらない。
曲者(くせもの)は「踏まえながら」という曖昧な言い回し。
この種の答弁の中に、殊更(ことさら)曖昧な表現が遣(つか)われるのは、
“わざと”曖昧しなければならない理由があるからだ。

一般に「Aを踏まえる」という場合、A(だけ)を判断や考え方の
拠(よ)り所にすることを意味する(A→a)。
しかし、「踏まえ“ながら”」だと、Aと判断(考え方)が必ず直結するとは
“限らない”。

Aを踏まえ“ながら”も、最終的な判断はそれと隔たったもの
(A→b)になるというケースがあり得る
(“ながら”の場合、その前後の動作に必然的な対応関係はない)。
しかも、上記答弁の場合、男系継承の重みを“踏まえて”即、
結論を出す、ではない。

「踏まえ“ながら”、(結論を出す前に!)慎重かつ丁寧に
(あれこれと)検討を行っていく」となっている。
Aを一応、踏まえつつも、そこからせっかちに結論を導く(A→a)
のでは“なく”、「慎重かつ丁寧に“検討”」を加えた上で、
おもむろに結論を出す、というのだ。その検討の手順が
「慎重かつ丁寧に(!)」と強調されているのも、見逃せない。

「慎重かつ丁寧に」検討してはいけない、と誰も反対はできない。
しかし、「男系継承の重み」“だけ”で結論を出すのならば、
本当はそんな「検討」なんて無用なはずだ。

にも拘らず、こうした「(慎重かつ丁寧な)検討」を主眼とした
言い方になっているのは何故か。

「重み」だけでは結論が“出せない”からに他ならない。
むしろ“慎重かつ丁寧”な検討の結果、A→bとなる可能性があるからこそ、
だろう。
しかし、そのことを最初から明け透けに表明すると、
数は少なくても意気込みが強い男系派を、いたずらに刺激するだけ。
そこで、このような一見、“男系重視”という印象を与えつつ
(それは成功している)も、決して「男系限定」の言質(げんち)は
与えない(この点はほぼ気付かれていない)、曖昧な表現になっている、
と見ることができる。

この辺りにも、政府答弁の苦心の痕(あと)が窺える。
「古来例外なく」とか、「重み」「踏まえ」など、
インパクトの強い言葉を目眩(くら)ましに並べつつ、
(「など」だけでなく)「ながら」でサラリと逃げる。

その上、「慎重かつ丁寧に検討を行っていく」と誰にも反対できない
言い回しを駆使して、猛烈ダッシュで逃げ切ってみせている
(だから、旧宮家案を頭から排除しても、何ら矛盾は無い)。

嘘は一切、ついていない。
しかし、ほとんどの人が誤解するよう、巧妙に仕組まれている。
だが、誤解した方が悪いと言い張れる、尻尾(しっぽ)を掴(つか)
ませない言い方になっている。

見事だ。

もはや「至芸」の域に達している、と言うべきか。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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