昭和45年。
今から50年前の明治神宮ご鎮座50年に当たり、当時は皇太子妃で
いらっしゃった上皇后陛下がお詠(よ)みになった御歌(みうた)。
ふり仰ぐ
かの大空の
あさみどり(浅緑)
かかる心と
思(おぼ)し召しけむ
ふり仰ぐと、広々とした空はどこまでも爽やかな淡い青色。
その空のような澄みきった、広やかな心を持ちたいと、
明治天皇はお考えあそばされていたことよ(その尊いお心掛けを仰ぎ慕う)。
そんな意味の御歌だろう。
勿論(もちろん)、明治天皇の明治37年の次の御製(ぎょせい)
を踏まえておられる。
あさみどり
澄みわたりたる
大空の
廣(ひろ)きをおの(己)が
心ともがな
一点の雲も無く、淡い青色に澄み渡った大空が、清らかで、
しかも広々としているように、自分の心も是非ともそのようでありたい。
明治天皇は常にそのように願っておられた。
心の清らかさと、度量が大きいことは、しばしば矛盾しがちだろう。
清らかさに偏れば狭く(狭量)になり、心の広さ(広量)ばかりに
傾けば濁りも混じりかねない。
明治天皇は、それらのいずれかに偏るのではなく、
至難ながら両方を兼ね備えることを、心掛けておられた。
そのお気持ちを「大空」に託してお詠みになったのが、この御製だった。
スケールが大きく、調べ(言葉の調子)の高く雅(みやび)やかである
様(さま)は、まさに“天皇”たる方にしかお詠みになれない秀逸ぶり
だろう。
上皇后陛下は、数多い明治天皇の御製の中から、
「あさみどり」の御製をお踏まえになった御歌を、
“ご鎮座50年”という大切な節目の年に、明治神宮に納められた。
「ふり仰ぐ」の語には、明治天皇へのお気持ちも込められているだろう。
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