「三島事件」裁判の判決文は、意外なほど事件の当事者達に同情的だった。
引き続き、その事を窺(うかが)わせる箇所を引用する。
「本件(三島事件)にあっては、三島(由紀夫)、森田(必勝、まさかつ)
及び被告3名が自衛隊と結託して政治的野望を遂げようとしたとか、
武力革命を自衛隊に対し唆(そそのか)したという点は窺えず、
同人らはひたすら自衛力の保持こそ我国(わがくに)を
保全する所以(ゆえん)であり、自国の安全を他国の友情や
犠牲にゆだねることは独立国家の否定を意味するとし、
自衛隊を憲法上の国軍と明定すべきであると信じ、
このことを死を決して国民に訴えんとしたものであって、
日本を眷恋(けんれん=恋いこがれること)する
誠直(せいちょく=誠実で正しいこと)の衷情(ちゅうじょう=まごころ)
は否定しえず、その動機に私利私欲なく、
粋然(すいぜん=混じりけがないこと)たるものがあるゆえ、
当初から自衛官殺傷の犯意はなく、本件全証拠によっても、
本件の目的、行動をとってもって軍国主義思想の発現ないし
推進と断ずることはできないものである」と。
同事件の動機を「日本を眷恋する誠直の衷情」に基づくと
見なしたのは、当事者達に対し、裁判官としてほとんど
最大限の共感的理解を示している、と言えるのではあるまいか。
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