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笹幸恵
2022.2.23 17:01皇室

雑・短絡・曲解が過ぎる百地章の憲法第二条の理解

天皇陛下、お誕生日おめでとうございます。


毎日新聞が行った調査「日本の世論2021」では、
皇位継承について、
女性天皇を容認する回答者が7割を超えたという。

「男子がいない場合のみ、女子の継承を認めるべきだ」は41%、
「男女にかかわらず、天皇の第1子の継承を優先すべきだ」は35%。

一方、「男子の継承を維持すべきだ」は10%。

年代別では、18~29歳で「第1子」が4割を超え、
60歳以上では「男子がいない場合のみ女子」が4割を超えた。
若い人ほど、性別にかかわらず長子優先と考えるのだろう。

また女性天皇容認の回答者のうち、
「女系による継承を認めるべきだ」が70%、
「男系継承を維持すべきだ」は10%だった。

もう今さら、ほとんど再確認の意味しかないけど、
国民の圧倒的支持は、「女性・女系天皇の容認」なのだ。

しかし「女系天皇の是非を世論で決めることは許されない」と
発言している「憲法学者」がいる。
百地章だ。

先日紹介した『クライテリオン』3月号、
高森先生も寄稿されているが、百地章も寄稿している。
それによると、天皇の地位は憲法で「日本国民の総意に基く」と
されているが、この総意とは憲法制定当時、
ないしは祖先以来の国民の総意を指すという。
だから世論調査は憲法のいう「国民の総意」とは全く別、
ゆえに世論で決めることは許されない、というのだ。

ムチャクチャだ。
この人、思考が雑であり短絡的なのだ。

この国のかたちや未来を考えるとき、
先人たちの思いを汲み取っていくのは当然の話だ。
しかし、だからといって現代を生きる人々の思いを
無視していいことにはならない。
「世論で決めることは許されない」って、
今を生きる人の総意を完全スルー???
一体どういう神経なのか。

そればかりではない。
憲法では、「皇位は世襲のもの」としか書かれていないのに、
この意味するところは「男系」だと断言している。
理由は、皇室典範に「男系男子が継承」と書かれているから。

「それゆえ、憲法にいう『世襲』とは
『男系』を意味する、というのが
立法者意思であることが分かる」

まったくわからん。
皇室典範に具体的なことが書かれているからといって、
なぜそれが「憲法の立法者意思」になるのか。
下位概念が、上位概念に影響するのか??
というか、曲解が過ぎる。


しかも読んでいてうんざりしたのが、
何年も前に言っていたことと全く同じことを
繰り返している点だ。

百地は、男系継承が守られなければならない根拠として
①憲法制定時の法制局「皇室典範案に関する想定問答」
②憲法改正案特別委員会の金森徳次郎大臣の発言
を紹介している。

これについては、以前ブログで指摘した。
「よくわかる皇位継承論のツボ」について〈その4〉
https://www.gosen-dojo.com/blog/24721/
(2019.12.24)

しかし上記②は、ちょっと驚くべき悪質さなので
あらためてここでも紹介しておこう。

百地は日本国憲法の「世襲」が男系男子を指すことを
示す一例として、次のように書いている。

憲法改正議会において金森徳次郎憲法担当大臣は、
この「世襲」は「本質的には現行の憲法(男系男子と
定めた明治憲法第二条)と異なるところはない」と
述べている。
(だから日本国憲法のいう『世襲』は男系男子である)
これは昭和21年、憲法草案について特別委員会で
審議している中での金森大臣の発言なのだか、
じつは都合のいいところだけつまみ食いしている。

実際、金森大臣はこう発言している。
男系の男子と云ふことは第二條には限定してありませぬ、
其の趣旨は根本に於て異なるものありとは考へませぬけれども、
併し時代々々の研究に應じて或は部分的に異なり得る場面が
あつても宜いと申しますか、さう云ふ餘地があり得ると云ふ譯で
斯樣な言葉になつて居ります

緑色が百地の取り上げた部分。
しかし逆接のあとに本当に言いたいことを書く(言う)のは
文章の基本。つまり、金森大臣の発言の主旨はピンク色の部分だ。

(笹訳)
憲法第二条には、男系男子とは限定していません。
その趣旨は、根本的には明治憲法と変わるところはないけれど、
時代の研究に応じて、部分的に異なるところがあってもいい、
というか、そういう余地がありうるだろうというわけで、
「世襲のもの」としか書いていないのです。

百地の出した結論が、金森大臣の発言の主旨と
180度異なることがおわかりいただけるだろうか。

日本国憲法は男系男子継承を立法意思とはしていない。
むしろ、時代によって男系男子継承は変わる余地があると
予見しているのである。

百地は意図的に歪曲しているのか、
それとも日本語を理解していないのか、
どちらかだろう。

そして女系になると「王朝が変わる」説も健在。
井上毅がイギリスの例を引用したからだと百地は紹介しているが、
それならば令和の今、2022年の今、
井上毅の考えを支持する根拠は何か、
イギリスの王室の考え方に倣う理由とは何なのか。
単に「井上が言ったから」「イギリスがそうだったから」
ということだけで「王朝が変わる!!」など、
何の説得力もない。ヒステリーにもほどがある。

こんな言説、両論併記で載せるべき内容ではないと思うが。

 

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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