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笹幸恵
2022.10.4 09:30皇統問題

皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈6〉

平成17年報告書と令和3年報告書の読み比べ、その6。

これまで、それぞれの有識者会議の
皇統問題に対する向き合い方、議論の進め方、
対応策(プラン)について見てきた。

〈バックナンバーはこちら〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈1〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈2〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈3〉
皇室問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈4〉
皇室問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈5〉

今回は最後として、それぞれの報告書の「まとめ」の
部分に触れておきたい。

平成17年報告書では、「結び」として
どのような姿勢で検討を続けてきたかについて述べ、
こう記している。

象徴天皇の制度は、国民の理解と支持なくしては成り立たない。このこと
を前提に、冒頭述べたように、制度の成り立ちからその背景となる歴史的事
実を冷静に見つめ、多角的に問題の分析をした結果、非嫡系継承の否定、我
が国社会の少子化といった状況の中で、古来続いてきた皇位の男系継承を安
定的に維持することは極めて困難であり、皇位継承資格を女子や女系の皇族
に拡大することが必要であるとの判断に達した。
古来続いてきた男系継承の重さや伝統に対する国民の様々な思いを認識し
つつも、議論を重ねる中で、我が国の将来を考えると、皇位の安定的な継承
を維持するためには、女性天皇女系天皇への途を開くことが不可欠であり、
広範な国民の賛同を得られるとの認識で一致するに至ったものである。 検討に際しては、今後、皇室に男子がご誕生になることも含め、様々な状
況を考慮したが、現在の社会状況を踏まえたとき、中長期的な制度の在り方
として、ここで明らかにした結論が最善のものであると判断した。 (傍線:笹) 注目ポイントは、男系継承を安定的に維持することは 極めて困難だとしていること、また 皇室に男子が誕生しても、現在の社会状況を踏まえたとき、 中長期的には女性・女系に道を開くことが不可欠だと している点だ。 悠仁さまがお生まれになったのは、平成18年。 有識者会議の報告書が提出された時点では、 紀子さまのご懐妊もまだ報道されていなかった。 にもかかわらず、有識者会議では 皇室に男子が生まれることも考慮に入れ、 その上で警鐘を鳴らしている。 ところが自称保守を中心とした男系固執派は、 悠仁さまのご誕生を「カミカゼが吹いた」と喜び、 第二次安倍政権は有識者会議の結論を握りつぶした。 安倍を「皇統の危機回避に奔走した」などと 評価する向きもあるが、とんでもない。 本来なら耳を傾けなければならない警鐘を、 「何が何でも男がえらい」という 統一教会の教義そのまんまの男尊女卑と、 まったく意味不明なY染色体を信奉する 男系固執派の支持を失いたくないあまり、 「白紙撤回」という暴挙に出たのだ。 以降、ずっとこの問題を先送りし続けた。 一政治家の保身である。 国家百年の計を樹てるべき政治家の怠慢である。 あろうことか、それに乗っかったのが 令和3年報告書なのだ。 なお、こちらのまとめというべき【6.おわりに】では、 次のように記されている(抜粋)。 会議のメンバーは、歴史や伝統に対する謙虚な
気持ちを抱き続けながら、真摯に、慎重に議論に臨んでまいりました ヒアリングでは、議論を進めるために大変有意義な知見を数多く得ること
ができましたし、専門分野、世代、性別など様々な面で多様な方々から幅広
い考え方を伺うことができました 会議のメンバーも様々なバックグラウンドを持ち、男女同数で年代的にも
幅広い構成の中で、それぞれ真摯に議論を重ねてまいりました 具体的には、(中略)、当事者の方の御意思をどのように制度に位置付ける
ことができるか、などについて真剣に考えたところです (傍線:笹) 書いていて空しくなるわ。 「真剣に議論しましたー」 「大変だったけど、こんなにがんばりましたー」 子供か? 「真摯に」「慎重に」「真剣に」など、 具体的な姿勢が見えない中でどんなに言葉を列べたところで、 何も伝わってこない。 こういうワードは、何も語るべきことがないときに いくらでも修飾語として使うことができる便利言葉。 まるで官僚か御用学者が作成したペーパーを そのまま追認しているかのように見える。 こんなもので有識者会議の役目は果たしたと 本当にメンバーは思っているのだろうか。 だとしたら、その知性と誠意を疑う。 最後はこんな締め。 皇室をめぐる課題が、政争の対象になったり、国論を
二分したりするようなことはあってはならないものと考えます。静ひつな環
境の中で落ち着いた検討を行っていただきたいと願っています。 自称保守派がよく使うフレーズのコピペ。 政争の対象とはどういう意味? 国論二分? なってませんが? 静ひつな環境って、どんな環境? いつ来るの? 待ったなしの問題のはずですが? 令和3年有識者会議の報告書、読み込めば読み込むほど、 とりあえず「やった感」を出すためだけの はりぼて会議だったということが、 よーーーくわかる。 あらためて、令和3年有識者会議のメンバーを掲載する。
大橋 真由美  上智大学法学部教授
清家  日本私立学校振興事業団理事長 
慶應義塾学事顧問
冨田 哲郎  東日本旅客鉄道株式会社取締役会長

中江 有里  女優・作家・歌手

細谷 雄一  慶應義塾大学法学部教授

宮崎  千葉商科大学教授国際教養学部長

(五十音順)
(笹注:座長は報告書に記載されていないが、清家篤)

ちなみに令和3年有識者会議でのヒアリング対象者はこちら。

=第2回会議(令和3年4月8日)=
岩井 克己 ジャーナリスト

笠原 英彦 慶應義塾大学教授

櫻井 よしこ ジャーナリスト・公益財団法人国家基本問題研究所理事長

新田 皇學館大学教授

八木 秀次 麗澤大学教授

=第3回会議(令和3年4月
21 日)=
今谷 国際日本文化研究センター名誉教授

京都産業大学名誉教授

古川 隆久 日本大学文理学部教授

本郷 恵子 東京大学史料編纂所所長

=第4回会議(令和3年5月
10 日)=
岡部 喜代子 元最高裁判所判事

大石 京都大学名誉教授

宍戸 常寿 東京大学教授

百地 国士舘大学特任教授

=第5回会議(令和3年5月
31 日)=
君塚 直隆 関東学院大学国際文化学部教授

曽根 香奈子 公益社団法人日本青年会議所監事

橋本 有生 早稲田大学法学学術院准教授

都倉 武之 慶應義塾大学准教授

=第6回会議(令和3年6月7日)=

綿矢 りさ 小説家

半井 小絵 気象予報士・女優

里中 満智子 マンガ家

松本 久史 國學院大學教授
最後に、報告書全文(PDF)をこちらにアップします。 ぜひ、あなたの目で実物を確かめてください。 令和3年報告書 平成17年報告書

 

 

(おわり)

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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