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笹幸恵
2022.11.11 19:51日々の出来事

ただただ鼻白む・・・『文藝春秋』安倍秘録

『文藝春秋』12月号に、安倍晋三秘録③として
「愛子天皇を認めていた」という記事が載っている。
元NHK記者の岩田明子氏の執筆。

安倍が、男系男子継承の限界を感じていて
女系・女性天皇に道筋を開こうとしていたのかと
思って読んでみたら、違った。
単に、「男系女子なら一時的に認めてもいいだろう」
と考えていただけだった。

岩田は、安倍から聞いた皇室像を
次のようにまとめている。

「男系継承を維持することを大前提とし、
現在の悠仁さままで皇位継承順位は変更しない」

「過去に皇籍離脱した旧宮家を皇族に復帰させる
ことはしないが、女性皇族は婚姻後も皇族の
身分を持ち続ける」

「現在の宮家を維持し、旧皇族の男系男子を
養子とすることを可能にする」

「旧皇族の男系男子が、現在の女性皇族の配偶者
または養子になる場合は、その男性も皇族となり、
その子どもは皇位を継承し得る」

「男系女子による皇位継承もあり得る」

なんだ、令和3年の有識者会議は、安倍の意向を
ほとんどそのまま追認しただけか。
そして岩田は、次のように続けている。

皇室史上、女性天皇は八人誕生しているが、
歴史的に様々な事情があってのことだ。
愛子天皇誕生に道を開くには茨の道も予想され、
安倍もそれを意識していた。

なんじゃそら。
一読して、岩田も皇室やその存続に何ら関心を
持っていないことがわかる。
「様々な事情」とはなんぞや。
やむを得ず女性を即位させた、
女性天皇は例外中の例外、
こうしたニュアンスが含まれているのは明らかだ。
そうでなければ、後に続く「茨の道も予想され」
がつながらない。
そもそも「茨の道」とはなんぞや。
安倍にとって、ゴリゴリの男系固執派の支持を失いかねない
というだけの話ではないか。
「例外中の例外」を貫き通すために思案し続けてきた
我が国の元首相・安倍晋三・・・。
こういう印象を抱かせる筆運びは、じつに鼻白む。

ほかにもツッコミどころが満載だ。

「安倍内閣の体力があるうちに、
有識者会議を立ち上げる。
そして将来、愛子天皇誕生への道筋に向けても
責任ある議論を進めなければならない」
ここ数年の間に、安倍が何度かそう口にするのを
私は聞いている。
(中略)
安倍は、あくまでも秋篠宮や悠仁さまへの皇位継承を
前提としたうえで、さらに皇統の存続を確かなものに
することが、重要であるとの立場だった。
つまり非常に「現実的な」見方をしていたのだ。

現実的かぁ?
悠仁さまのあとに愛子天皇が誕生するということ?
そもそも直系より傍系が優先されるのは
「男である」ことに尽きる。
結局「女は中継ぎ」説から抜け出ていない。
別に男系男子を伝統として
守り通してきたわけではないのに。
なぜ女はダメなのか、それがもはや
社会通念と整合性がとれないことが問題なのに。
岩田自身、女性なのにそのことに対して
何も思わないのだろうか。

また平成17年、有識者会議で女性・女系天皇を
認めるという内容の報告書が出される直前、
安倍は岩田にこう電話で話したという。

「女系も認めてしまえば、あらゆる人が
天皇家に関われることになる。
それには抵抗を感じる。
愛子さまがいらっしゃるうちは、
女帝を認め得る形にすればいい。
それで皇統は五十年、六十年は保たれるだろう。
その間に男系の家を新たに建てて、
皇位を継承する流れを作ればいいのではないか」

この安倍の考えに対し、岩田は
「この頃から愛子天皇を認めるとの考えを
抱いていた」と述べているだけ。

なぜ女系を認めるとあらゆる人が
天皇家に関わることになるのか、
さっぱり意味がわからない。
「愛子さまがいらっしゃるうちは」などと言うのも、
対症療法的、付け焼き刃、やっつけ仕事という印象。
皇位の安定的継承という根本的な課題について
考えなければならないというのに、じつに表面的。
その間に男系の家を新たに建てる?
女帝を認めるより、よっぽど大ごとだぞ。
そして現在、「過去に皇籍離脱した旧宮家を
皇族に復帰させることはしない」と言っている
のだから、そもそも無理筋だったことは明らか。
こうした安倍の発言に対して、
ジャーナリストとしてスルーでいいのか。


じつはこの記事、女帝を認める云々の記述は後半のみで、
前半はもっぱら天皇(現在の上皇)陛下の
「生前退位」に関する内容。
天皇の意向が示され、安倍が慌ただしく動く様子が記されている。
200年ぶりの生前退位という歴史的な事態に対処する安倍政権・・・。
ドラマチックに書かれているが、
何のことはない、半年前に宮内庁から意向を知らされていたにも
かかわらず、安倍はスルーしていた。
また本来ならば、皇室典範の改正を真正面から議論しなければ
ならないにもかかわらず、「終身在位」の規定を変えないために
どうすればいいかを考えていた。
とても皇室に敬意を持っていたとは思えない。
天皇陛下の意を汲んで誠心誠意動こうと
していたとは思えない。
そこをつっこまない岩田もまた同類だ。

「秘録」だからね、批判も批評も
求められていないのかもしれないけど、
本質的なことには何一つ触れず、
上手な筆運びで「官邸の裏側」的なことを
綴られても・・・、ただただ鼻白む。

 

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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