徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方⑥byケロ坊
10.「バランス感覚」という言葉の有無
佐藤健志版(PHP研究所)
「伝統を踏まえたバランス感覚にしても、公然と否定される始末。ならば当のバランス感覚を頼りにするわけにはゆくまい。」
二木麻里版(光文社文庫)
「かれらはほかのすべての権威とあわせてこうした先入観を自分たちの管轄領域から追放してしまったわけですから、自分たちが支持をえられるという期待も抱きようがないでしょう。」
中野好之版(岩波文庫)
「彼らは、人類の偉大な感化力である偏見を、自分の味方として全く何一つ有していない。彼らは、社会通念への敵意を公言している。もちろん彼らは、他のすべての権威もろとも、彼らがその本来の管轄の場所から追放したこの感化力から如何なる支持も期待してはいけない。」
似たことは言っていても、「伝統を踏まえたバランス感覚」というセンテンスは、二木版、中野版ともに見られませんでした。
これはおそらく佐藤氏が西部邁から影響されて入れた言葉なのでしょう。ただ、バークも近いことは言ってるので、言葉として使いたくなる気持ちはわかります。
しかし文脈に沿ってるとはいえ、勝手に言葉を差し込むのはどうかと思いました。
以前の記事で「伝統を踏まえたバランス感覚ということはバークも言っていた」と書いてしまっていたのですが、誤りでした。
新訳はこういうことがあるんだなと勉強になった部分です。
ちなみに二木版は、本編でなく、あとがき解説の中に「バランス感覚」の言葉はありました。
内容に関して言えば、男系派は愛子天皇公認の歴史的感覚・常識を追放しているカルトの群れで、皇統を保ち守るバランス感覚などゼロなので、やはり保守ではありません。
11.愛郷心の大事さ
佐藤健志版(PHP研究所)
「地元に愛着を抱くことは、国全体を愛することと矛盾しない。いや、まずは地元を愛してこそ、国という大規模で高次元なものにたいし、個人的な事柄のごとく愛着が持てるようになるのだ。フランスのごとく巨大な王国ならば、なおさらではないか。」
二木麻里版(光文社文庫)
「国家への愛情は家族のなかから始まります。冷たい親戚が熱心な市民になることはありません。家族から始まってわたしたちは隣人と結びつき、それがやがて習慣で定められた地域の結びつきに進むのです。
〜中略〜
全体に従属する地方へのこの偏愛のために、国という全体に対する愛が消滅することはありません。むしろこうした偏愛は、より高次でより広範な関心を育てるある種の基礎訓練になります。
こうした訓練をつうじて人は自分の利害だけでなく、フランスという巨大な王国の繁栄にも心を動かされるようになるのです。」
中野好之版(岩波文庫)
「我々は、公共への愛着を家族から始める。冷淡な近親者は熱烈な市民たりえない。我々は、次に近隣関係や我々の習慣的な地縁の結合へと進む。
〜中略〜
全体への愛は、この下部への偏愛で消されることがない。多分これこそは、人々がそれによって初めてフランスのような大きな王国の繁栄を自分自身のことと感ずることを教える、一層高くて大きな関心を養う一種の基礎訓練に他ならない。」
ここまで佐藤版にはやや批判的でしたが、愛郷心・パトリオティズムの説明について、ここまで短く簡潔にされると素直に凄いとも思います。だからこそ以前の記事で取り上げました。
とはいえ、要約も激しいので、バークが実際にどう言っていたかを知りたい方は佐藤版以外をおすすめします。
「愛郷心」「クニのために」は、『戦争論』に直結するテーマでもありますが、『戦争論』を絶賛していたネトウヨが全然わかってなかった部分なので、こうして別の言葉に触れればその理解も深まるのではないでしょうか。
逆に言うと、「クニのためにと言われても自分にそんな感覚ないなあ」となって思考が続かず、公への経路がなくなってる人もいるように思います(自分も一時期はそうでした)。
キャンセルカルチャーにのぼせ上がってる左翼や、男系固執ネトウヨなんか思いっきりそれでしょう。
「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』
~男系派が全然保守ではない23の理由」
第1回
プロローグ
1.保守は逆張りではない
2.言葉の中身、論理の有無
第2回
3.設計図の欠陥を指摘すること
4. 「人権はヤバイ」と230年前から言われていた
5.「国をどう動かしていくか」という国家観
6.王と伝統との関係
第3回
7. 王室や伝統だけでなく、キリスト教も弾圧して貶めたフランス革命
8. 「Revolution」は全然カッコいいものじゃなかった
9. 「理性主義」の危険さ
10. 福澤諭吉との共通点(保守としての生き方)
11. 革命派の女性差別に怒る保守主義の父
第4回
12.「オレ様が啓蒙してやる」という態度は非常識なもの
13.固執と改善の話
14.『コロナ論』との共通点
15.愛郷心の大事さ
16.「自由」の意味
17.固執は無能の証
第5回
18.思いっきりリベラルなことも言ってた保守主義の父
19.革命派をカルトに例えるバーク
20.男系闇堕ちした石破と、妥協が技らしい野田のことも言われてる
21.国体を保守すること
22.歴史を省みない“うぬぼれ”
23.頭山満との共通点
徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方
第1回
1.「人権は爆弾」と言ってるところ
第2回
2.革命派・人権派による王室否定と女性差別の指摘
3.「prejudice」の訳し方
第3回
4.常識が失われることへの警戒
5.困難に立ち向かうこと
第4回
6.自国の歴史を省みないのはうぬぼれ
7.迷信に執着するのは保守ではない
第5回
8.政治家への評価の基準
9.『コロナ論』とも共通する病気への対処法について
私としては、「愛郷心」の説明で佐藤健志氏が省略している「冷淡な近親者は熱烈な市民たりえない」というのがすごく大事な気がしました。
ネトウヨ・男系固執派って連中は、「伝統」を振りかざして周囲にマウントを取ることしか考えてない奴らで、温かい人間関係なんか作れない人たちで、当然近親者にも冷淡で、そんな人が熱烈な愛国者であるわけがない…というように思えてしまうのですが、これって偏見ですかね? でも、偏見って大切ですよね。