自民党・和田政宗参議院議員は、「祖国と青年」に収録された講演録の中で次のように述べています。
私も茶会などで、秋篠宮家の方々とお話させていた だくことがありますが、とても素晴らしい方々で、決してバッシングをされるような方々ではありません。では、なぜバッシングされるような状況になっているのかといえば、私は真正の保守ではない、いわゆるビジネス保守といった人たちがSNS に事実ではない情報を流し、けしかけているところに大きな問題があると思っています。
例えば、小林よしのり氏が『愛子天皇論』というマンガを描いて、それが売れたら、今度は『愛子天皇論 2 』を出しています。
和田はここで、バッシングをけしかけているビジネス保守の代表例として小林よしのりという名を挙げ、その著書である愛子天皇論シリーズを保守ビジネスのための商品であるといったニュアンスの事を述べています。
実際には、愛子天皇論シリーズの中では秋篠宮家を含む皇室バッシングを強く批判しており、和田の言葉は完全なる虚偽の名誉毀損です。
あらためて怒りを覚えつつも、ここで「ビジネス保守」というものを少し掘り下げて考えてみましょう。
マーケティングの中で「フロントエンド商品」「バックエンド商品」という言葉が使われる事があります。
フロントエンド商品は、自社の商品に興味関心を持つ人を洗い出す(広く集客する)ためのもの。これは安価だったり、時には無料で配布される場合もあります。
そうして集まった「見込み客」(将来的に、自社商品を買ってくれる可能性が高い人々)がマーケット(市場)となります。
マーケットに対し、フロントエンド商品で提示されたのと同じ嗜好・価値観を持つ商品を提供し続ける事でビジネスが成立しますが、ここで重要なのは「元よりもアップデートされたものを出せばさらに売れる」とは限らない事。むしろ、進化したら売れなくなった、という商品もあちこちに存在します。
特に、価値観のアップデートを億劫がる人が多いマーケットに向けては、実際の価値や有効性に疑問がある商品でも、マンネリに供給される方が商売として安定する事も少なくありません。
実は「ネトウヨ市場」は、上記の典型的な例です。
そこの客層が求めているのは、「日本人であるから」といったような、自身の能力や努力に関係なく得られる属性で優越感を感じさせてくれる「サービス」なので、自我を揺さぶられ、テーマと強く対峙する事を求めるようなメッセージは(「自分の怠惰性を責められた!」と高いだけのプライドで感じるので)逆に忌避されます。
小林よしのり「戦争論」は大ヒットの中で、(当時の社会風潮では作家生命を賭けるレベルの冒険だった)テーマの一環である「自虐史観の打破」を、本質を理解できず単に優越感を満たしてくれるサービスとして消費した層も浮き彫りにしてしまいました(戦争論はネトウヨを「生んだ」のではなく、正確には「怠惰な者を洗い出した」に過ぎないと思います)。
そうした「モノを考えない層」は(マンネリに自尊心を満たし続けてあげれば良いので)一番「ボロい客」にもなり得るんですが、ゴー宣シリーズはむしろそうした層をバッサリ切り捨て(そうした事を何度も繰り返しながら)アップデートを続けています。
はっきり言って、どう見てもよしりん先生は「商売がヘタ」です(笑)
一方、その跡地には、「カモ」の集合体としてのネトウヨ市場が明瞭な形で残り、リスクや手間をかけずに「参入」する事が可能に。
件の和田政宗の講演などは、「カモの池に撒く餌」として、完全にテンプレート的な内容です。
褒めてあげますが、実に〝クレバー〟なビジネス保守としての振る舞いだと思います。
でも、この講演。戦争論が出る前の状況下だったら、同じ形・内容で出来たでしょうか?
和田政宗は「小林よしのりが切り開いた道」に空いた窪地にタダ乗りしながら、嘘を流布して「恩人」を貶めるという、なんともゲスな行いをしている事になります。
さて、見込み客が見定められた所に投入されるのが、大きな利益を上げるための「バックエンド商品」。これは見込み客の中でも、ほんの一部のコアな層にだけ売れれば良いように、高額に設定されるのがセオリーです。
これの典型が、竹田恒泰の「古墳ビジネス」。数十万〜数百万円という価格で、見込み客のほんの一部に売れるだけでも大きな収益となるでしょう。褒めてあげますが、優秀なビジネス保守ですね。
そして和田政宗のバックエンド商品は「参議院議員」というプライスレス級の立場・権力です。自民の比例区なので、多くの国民の感覚からは乖離しても、より極端に偏った主張をしたほうが全国から「特定の層」の票が集まれば当選しやすい。これも「ビジネスモデル」としては、理にかなっています。
では、小林よしのりのバックエンド商品は何か…?これが、無いんですよねえ(笑)仮に「よしりん先生にもっとお金を使いたい!」と思ったとしても、せいぜい本を買うなどしかできない。本の印税って価格の1割程度だし、その中からスタッフの皆さんの給料その他の経費その他を考えたら利益率は相当に低いはずです。
おそらく、過去何回ものメガヒット作品があってこそ経営が成立しているのであり、漫画の才能に立脚した、まったく一般化や確実な再現性などが望めない経営モデルです。
やっぱりよしりん先生には、「ビジネス保守の才能」がない!(笑)
そうなってみると、和田の主張中の「ビジネス保守を警戒せよ」という論旨は、あながち的を射たものなのかもしれません(笑)
これからも(金銭的な収益どころか、権力者という立場を入手した)〝優秀なビジネス保守〟和田政宗をしっかり監視・リサーチして行こうと思います。