『月刊正論』7月号の読売提言への弱々しい抵抗特集の中に、
私を名指しで批判したもの(百地章氏の執筆)があったので、
先のブログで少し取り上げた。本稿もその続き。⑤「高森氏は現皇族の養子候補とされている
旧宮家の男系男子を指して、敢えて『一般民間人』と呼び、
『一般国民が養子縁組で皇族になることは、
皇室の歴史でも前例がなく、これでは同じ国民でありながら
門地で差別する憲法違反になってしまいます』という
(『女性自身』5月2日配信)しかしながら、臣下の身分に生まれながら、
後に皇族となり、さらに天皇として即位された方もいらっしゃる。
それは、第60代醍醐天皇…(高森)氏は『養子縁組』で
皇族となったわけではない、などと
屁理屈をこねたいのであろうが、それは事の本質から外れている」まず細かい点ながら、私は旧宮家系子孫について
「一般国民」とは言っても、「一般“民間人”」という
少し風変わりな言い方をした記憶がない。実際に引用されている記事を見ても、
私の表現は「一般国民」になっている
(ネット記事だけでなく掲載誌でも同じ)。
これは、どういうことか。それはともかく、引用部分で私はa「前例がない」、
b「憲法違反」の2点を指摘している。aについて、私は実際に政治の主な検討課題の
2案のうちの1つになっている“養子縁組プラン”について、
具体的に言及している。
しかし残念ながら、それには何の反論もない。
勝手に土俵を動かして、「事の本質から外れている」と言い逃れ。
しかし普通の判断力があれば、“論点のスリ換え”としか
受け取れないだろう。しかも、せっかくスリ換えた事例が、
親(宇多天皇)が元々皇族で、その親の皇籍復帰に伴って
皇籍を取得した醍醐天皇のケース。
これでは何の反論材料にもならない。旧宮家系子孫の場合は、よく知られているように
親の代から既に国民。その国民の子が、後から単独で
皇籍取得を図るプランなので、全く当てはまらないからだ。ついでに触れておくと、
一見すると反論の材料になりそうなのに百地氏は
何故か取り上げていないが(知らなかった?)、
近頃、養子縁組による皇籍取得の「先例」(?)
として言及される源明子(めいし)のケースがある。
しかしこれは、藤原道長の側室になった事実からも
分かるように、皇統の維持に全く意味を持たない
「養女」の事例だ。
当たり前ながら、旧宮家養子縁組プランの先例にはならない。又、以前から取り沙汰されている忠房親王の場合は
(これも百地氏の視野に入っていないようだが)、
拙著『愛子さま 女性天皇への道』(講談社ビーシー/講談社)
でも紹介した通り、単に元皇族が皇籍復帰したケースだった
(日本史史料研究会監修·赤坂恒明氏『「王」と呼ばれた皇族』参照)。bについては、次の3点の弁明に努めている。
その1。
「内閣法制局が2回にわたって
『憲法14条の禁止する門地による差別には当たらない』と答弁した」
しかし“政府サイド”の内閣法制局が何回、政府の提案した
プランを合憲だと言い募っても、身内の弁護論でしかないので、
残念ながら説得力が無い。
現に、憲法上「国権の最高機関」(第41条)とされる
“国会サイド”の衆議院法制局は、違憲の疑いを否定できない、
との見解を既に明らかにしている(3月10日、第3回全体会議にて)。その2。
憲法第14条は「国家と国民の関係」を規定したもので、
「皇室はその例外である」。
でも、旧宮家系子孫は「皇室」内の存在ではなく
(皇統譜に登録されていない)、
「国民」だ(戸籍に登録されている)。
よって「例外」では“ない”。その3。
「憲法第1章に定められた『皇位の世襲性❲制の間違いか?❳』を
維持し、皇室典範第1条にいう『男系の男子』を
確保するためである。
それ故、『合理的区別』に当たり、
『門地による差別』にはならない」
いやいや、「最高法規の憲法」と「下位法の皇室典範」を
同列に“繋げて”論じるのは、頂けない。
憲法の要請はあくまでも「世襲」にとどまる。
その世襲には、男性·女性、男系·女系を含む。この点について麗澤大学教授の八木秀次氏が同特集で、
今の憲法·典範が制定される前の昭和21年の宮内省(当時)の
“古証文”を持ち出して、世襲=男系と言い張ろうとしている。
だが政府見解がそうではないことは、
例えば彼がブレーンを務めたという故·安倍晋三氏の
国会答弁からも明らかだ
(内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集❲2❳』参照)。よって世襲の要請に応える為には、
側室不在の一夫一婦制の下で少子化が進む趨勢を踏まえると、
皇室典範にある明治以来の「男系男子」の縛りを
解除するしかない。それを差し置いて、皇室典範(第9条)で禁止されている
養子縁組を、家柄·血筋を理由に(!)特定の国民にだけ
“例外的·特権的”に認めるのは、
まさに「門地による差別」に当たる。このような制度を採用することは、
「国家と国民の関係」において明らかに憲法違反だ。
(続く)▼追記
今月のプレジデントオンライン
「高森明勅の皇室ウォッチ」は前倒しで6月11日に公開。
テーマは天皇ご一家での「沖縄への慰霊の旅」。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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