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高森明勅
2025.6.10 16:27皇統問題

男系固執言論の惨状を晒した残念な『月刊正論』7月号特集

 

『月刊正論』7月号の読売提言への弱々しい抵抗特集の中に、
私を名指しで批判したもの(百地章氏の執筆)があったので、
先のブログで少し取り上げた。本稿もその続き。

⑤「高森氏は現皇族の養子候補とされている
旧宮家の男系男子を指して、敢えて『一般民間人』と呼び、
『一般国民が養子縁組で皇族になることは、
皇室の歴史でも前例がなく、これでは同じ国民でありながら
門地で差別する憲法違反になってしまいます』という
(『女性自身』5月2日配信)

しかしながら、臣下の身分に生まれながら、
後に皇族となり、さらに天皇として即位された方もいらっしゃる。
それは、第60代醍醐天皇…(高森)氏は『養子縁組』で
皇族となったわけではない、などと
屁理屈をこねたいのであろうが、それは事の本質から外れている」

まず細かい点ながら、私は旧宮家系子孫について
「一般国民」とは言っても、「一般“民間人”」という
少し風変わりな言い方をした記憶がない。

実際に引用されている記事を見ても、
私の表現は「一般国民」になっている
(ネット記事だけでなく掲載誌でも同じ)。
これは、どういうことか。

それはともかく、引用部分で私はa「前例がない」、
b「憲法違反」の2点を指摘している。

aについて、私は実際に政治の主な検討課題の
2案のうちの1つになっている“養子縁組プラン”について、
具体的に言及している。
しかし残念ながら、それには何の反論もない。
勝手に土俵を動かして、「事の本質から外れている」と言い逃れ。
しかし普通の判断力があれば、“論点のスリ換え”としか
受け取れないだろう。

しかも、せっかくスリ換えた事例が、
親(宇多天皇)が元々皇族で、その親の皇籍復帰に伴って
皇籍を取得した醍醐天皇のケース。
これでは何の反論材料にもならない。

旧宮家系子孫の場合は、よく知られているように
親の代から既に国民。その国民の子が、後から単独で
皇籍取得を図るプランなので、全く当てはまらないからだ。

ついでに触れておくと、
一見すると反論の材料になりそうなのに百地氏は
何故か取り上げていないが(知らなかった?)、
近頃、養子縁組による皇籍取得の「先例」(?)
として言及される源明子(めいし)のケースがある。
しかしこれは、藤原道長の側室になった事実からも
分かるように、皇統の維持に全く意味を持たない
「養女」の事例だ。
当たり前ながら、旧宮家養子縁組プランの先例にはならない。

又、以前から取り沙汰されている忠房親王の場合は
(これも百地氏の視野に入っていないようだが)、
拙著『愛子さま 女性天皇への道』(講談社ビーシー/講談社)
でも紹介した通り、単に元皇族が皇籍復帰したケースだった
(日本史史料研究会監修·赤坂恒明氏『「王」と呼ばれた皇族』参照)。

bについては、次の3点の弁明に努めている。
その1。
「内閣法制局が2回にわたって
『憲法14条の禁止する門地による差別には当たらない』と答弁した」
しかし“政府サイド”の内閣法制局が何回、政府の提案した
プランを合憲だと言い募っても、身内の弁護論でしかないので、
残念ながら説得力が無い。
現に、憲法上「国権の最高機関」(第41条)とされる
“国会サイド”の衆議院法制局は、違憲の疑いを否定できない、
との見解を既に明らかにしている(3月10日、第3回全体会議にて)。

その2。
憲法第14条は「国家と国民の関係」を規定したもので、
「皇室はその例外である」。
でも、旧宮家系子孫は「皇室」内の存在ではなく
(皇統譜に登録されていない)、
「国民」だ(戸籍に登録されている)。
よって「例外」では“ない”。

その3。
「憲法第1章に定められた『皇位の世襲性❲制の間違いか?❳』を
維持し、皇室典範第1条にいう『男系の男子』を
確保するためである。
それ故、『合理的区別』に当たり、
『門地による差別』にはならない」
いやいや、「最高法規の憲法」と「下位法の皇室典範」を
同列に“繋げて”論じるのは、頂けない。
憲法の要請はあくまでも「世襲」にとどまる。
その世襲には、男性·女性、男系·女系を含む。

この点について麗澤大学教授の八木秀次氏が同特集で、
今の憲法·典範が制定される前の昭和21年の宮内省(当時)の
“古証文”を持ち出して、世襲=男系と言い張ろうとしている。
だが政府見解がそうではないことは、
例えば彼がブレーンを務めたという故·安倍晋三氏の
国会答弁からも明らかだ
(内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集❲2❳』参照)。

よって世襲の要請に応える為には、
側室不在の一夫一婦制の下で少子化が進む趨勢を踏まえると、
皇室典範にある明治以来の「男系男子」の縛りを
解除するしかない。

それを差し置いて、皇室典範(第9条)で禁止されている
養子縁組を、家柄·血筋を理由に(!)特定の国民にだけ
“例外的·特権的”に認めるのは、
まさに「門地による差別」に当たる。

このような制度を採用することは、
「国家と国民の関係」において明らかに憲法違反だ。
(続く)

▼追記
今月のプレジデントオンライン
「高森明勅の皇室ウォッチ」は前倒しで6月11日に公開。
テーマは天皇ご一家での「沖縄への慰霊の旅」。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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