ゴー宣ネット道場

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切通理作
2013.8.27 00:19

毎日新聞「風立ちぬ」記事の誤謬

 毎日新聞で『風立ちぬ』の記事があって、そこにコメント求められ、校正可の条件で受けました。後にメールで発言をまとめたものが送られてきて、校正後すぐ返送。しかしまったく反映されず記事になった模様。

 
 
  このURLで全文が読めます。
  
http://mainichi.jp/enta/news/20130821dde012200009000c2.html

  毎日新聞2013824日夕刊特集ワイド賛否両論「風立ちぬ」

 

 毎日新聞記事で自分が校正返送したけれども、反映されなかった3点を挙げます。

 

   (校正前)「やはり戦争を描いたり反戦を訴えたりする映画ではないですね」

 

→(校正後)「やはり戦争の賛否を言葉にして訴える映画ではないですね」

 

2 (校正前)「就職難で、例えば大企業に入ることは難しいし、大きな仕事を任せられることもない。限定された断片的な役割しか与えられない人が大半。国策の歯車となったあの時代の人たちと同じではないか。それでも人は恋愛もするし、生きていかなければならない。私は、そう訴えかけられましたね」

 

 →(校正後)「人生の大目的や『世の中どうする』という部分で大きな仕事を任せられることもない、限定された断片的な役割しか与えられないいまの世の中。でもその中で自分の才能や嗜好を生かすこともできるし、大切な人と恋愛もできるんだよという、宮崎監督の若者へのエールにも感じられました」

 

3     (校正前)「他のアニメや映画では戦闘場面がてんこ盛りなのに、制作者がインタビューや作中で『でも戦争は反対』と語ることが多い。でもしょせん、それはむなしい自己満足、偽善に過ぎないという思いが宮崎監督にはあると思う。だから戦争の残酷さや主人公の戦争への考え方にも踏み込まなかった。もし戦争を描くのなら、別の作品で描くかもしれません」

 

  →(校正後)「戦闘場面が見せ場なのに、本当は戦争には反対だとか、平和が大切だというメッセージが入っているアニメがあるけれど、でもしょせん、それはむなしい自己満足、偽善に過ぎないという思いが宮崎監督にはあると思う。だから戦争に対する主人公の考え方を多くの言葉にしなかった。それに直接戦場で戦う人々の話は、別の作品で描くかもしれません」

 

 以上、校正後の方が元の発言のニュアンスに近いものです。

 

 まず校正1に関して。言葉にしてないから描いてないということではないという意味での校正です。

 

 2に関して、大企業云々は関係ないです。堀越二郎のいた三菱は大企業ですし。むしろこの発言は宮崎駿さんがよく言っている「21世紀に大芸術家は生まれにくい」つまり個々の表現や仕事は断片化せざるを得ないという状況と対応しています。

 

 3に関して。元の発言はかつての宮崎作品『ルパン三世』(第二シリーズ)最終回「さらば愛しきルパンよ」(兵器の恐ろしさを訴えるための行動が兵器の宣伝になってしまう皮肉を描いたもの)を意識した発言でした。校正ではその元のニュアンスに戻しました。

 

 

 新聞のコメント取材というものは、短期間で多くの人に聞いて回らなければならないため、一つ一つのニュアンスは無意識に記者の言葉に置き換えられていることが多く、しかも話の流れではなく文章の流れにコメントを挟み込む形をとります。

 

 そこでニュアンスが違ってしまう事があるので、僕は新聞取材は校正を条件に受けることにしています。

 

 さてゴー宣道場ブログの読者のみなさんだったら、ここにつけ加えられたニュアンスの違いの意味に気付くのではないでしょうか。

 

 記者のまとめた原稿には、宮崎駿が戦争を避けて通ったという印象と、その戦争は無前提に「残酷」であり、そこで生きた主人公含むあの時代の人びとは「国策の歯車」であるという印象操作が忍び込んでいます。

 

 この印象操作が意図的なものであるのか、無意識故なのかはわかりません。

 この記者は30代になったばかりと若く、人当たりはいい感じでしたが、このような一見ソフトな物腰で行われる印象操作には気をつけねばならないと思いました。

 

 特に今回、映画そのものが微妙なニュアンスを大事にしているし、そこに踏み込んだ記事だと思って読む人が多いと思うんです。

 

 その点、このブログでの小林さんの発言、およびライジングへの感想、掲示板の書き込みは書いた人の言葉そのもので、なんら手を加えられたものではありません。


 あるいは宇野常寛さんによる『風立ちぬ』批評も、宇野さんが自分の文章、自分の言葉でそのままストレートに語っています。

 だからこそ、対立点がくっきり出ます。

 

 議論の積み重ねの材料として最低限必要なことを共有しながら、10月の道場に臨みたいと思います。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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