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切通理作
2014.1.24 02:00

映画で「戦時下の日本」を描く限界と可能性

  明日、25日から全国松竹系劇場で公開される山田洋次監督作品『小さいおうち』は、昭和39年生まれの作家・中島京子が直木賞を受賞したベストセラーの映画化。昭和10年代の日本を舞台に、六十年前の戦前にも、東京郊外には、中流家庭のそれなりにモダンな暮らしがあったということを、赤い三角屋根の下で働く女中さんの側から見つめるという内容。

 女中さんがいる中流家庭は、いまやほとんど存在しませんが、「女中さん」は、山田洋次監督にとっては重要なキーワードでもあります。

 今回は下の世代が書いた小説を基本忠実に映像化しながら、昭和6年生まれである山田洋次監督が知っている当時の日本人のたたずまいを投影することで、登場人物が<生きた人間>として立ち上がります。

 
 私のやっているメルマガ「映画の友よ」第4号では『山田洋次監督「小さいおうち」に見る<家族><時代>そして<戦争>」と題して、娯楽映画研究家の佐藤利明さん(文化放送『みんなの寅さん』司会)とトークしています(http://yakan-hiko.com/risaku.html

 
 
 佐藤さんは、原作にはないディテールに注目することで、舞台となる一家に山田洋次監督自身から聞いた少年時代の心象風景や空気感、親との関係や家族環境を重ね合わせて語ります。

 

 佐藤さんは、映画の中で言及されているSPレコードの音源を用意して、山田監督が出たラジオ番組の本番の時に流して、監督を喜ばせたといいます。

 
「山田監督が、居心地良かった少年時代・・・・戦後は、戦争ってものを振り返る時に、それすら全部否定しなければいけなくて、その居心地良さを否定しながらみんな生きてきたわけじゃないですか? でもホントは、南京大陥落の時に三越でバーゲンやってたんだっていう。こういうことが情報として、ちゃんと出てくる映画は初めてだと思います」(佐藤さんの発言より)

 もちろん、その「居心地の良さ」は両義的です。当時は東京にオリンピックが来るということが予定されており、シナとの戦争など長引かないし、アメリカがわざわざ遠い日本に来ることなどないだろうとたかをくくっている会社員の等身大の姿が描かれるのです。

 主人公の元女中・タキさん(倍賞千恵子)がそのことを自叙伝に書くと、現代の、孫の世代である大学生の妻夫木聡が「おばあちゃん、嘘書いちゃダメだよ。戦前はもっと暗い時代だったはずでしょ」と言います。

 

 この映画を見て、僕は、たとえば『永遠の0』とは正反対の映画だと思いました。

 『永遠の0』は、戦後的な価値観の人間がタイムスリップしたかのような主人公を岡田准一が演じますが、彼以外の日本人は全部価値観が一緒で、死に急いでいるような人たちに描かれています。あれはまさに『小さいおうち』で妻夫木聡が言う、「あの頃の日本人はそうだったはずだ」っていう思い込みそのものではないかと。

 佐藤さんはそうした点に、82歳の山田監督が伝えたいことを見ます。
「映画はストーリーを伝えるだけでなく、登場人物が生きている時代や、暮らしぶりを通して、現代の観客が、何を感じるか? ということもありますよね」

 
  実はゴー宣ネット道場の、高森昭勅さんとの『時事楽論』では、今度は『永遠の0』の方をメインに、しかしテーマとしては、やはり映画で戦時下の日本を描くということについて、語っています。
  近日中にUPされると思いますので、ぜひこちらもご覧頂けると幸いです。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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