ゴー宣ネット道場

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高森明勅
2014.9.8 00:41

朝日新聞の思い出(2)

予め1つ断っておく。

朝日新聞の「思い出」と言っても、
別に朝日新聞自体が既に廃刊し、
過去の存在になっている訳では勿論ない。

念のため。

さて、思い出その1。

昭和63年、私がまだ31歳の頃のこと。

この年の9月19日夜、昭和天皇は大量の吐血をされた。

以来、翌年1月7日に崩御されるまで、
111日間に及ぶご闘病の日々を送られる。

朝日は、そのご吐血から1週間も経たない
9月24日付夕刊の一面トップで

昭和天皇は「すい臓部に『がん』」と報道。

わが目を疑った。

ガンが事実かどうかではない。

当時、ガンは殆ど不治の病と見られ、本人への告知は、
今より遥かに慎重に扱われていた。

現に昭和天皇の場合も、
皇太子殿下(今の天皇陛下)にはご報告しても、
ご本人にはお伝えしていない。

にも拘らず、いくら公人中の公人たる天皇陛下とはいえ、
ご本人も知らないガンの事実を、
一方的に満天下に晒すような真似が許されるのか。

いくら報道の自由と言っても、これは明らかに限度を越えている。

余りにも非礼、非常識ではないか。

怒髪、天を衝く思い。

だか、陛下のご不例中。

世間を騒がせるような振る舞いは、慎まねばならない。

私は手足を縛られた状態の中、たった1人だけで、
“粛々と”抗議することにした。

具体的には、朝日新聞本社に赴いて直接、
この記事の責任を追及すること。

電話で約束を取り付け、社会部長と担当のデスクに面会。

先方はノラリクラリと言い逃れに終始した。

私は、声を荒げないよう、感情的にならないよう、
精一杯、
気を付けて喋った
(既にお気付きの人もいるだろうが、小生、
結構、気が短い)。

面会の目的は、自分が怒りを爆発させて、
溜飲を下げることではない。

今回の記事が、いかに客観的妥当性を欠くか、
相手にしっかり自覚させ、
納得させることが、一番肝要なのだ。

抗議というより、「説諭」に近かったかも知れない。

結局、先方は
「今後は、紙面を作る際、このような声もあったことに配慮する」
といった程度の、
曖昧な回答。

だが言葉とは裏腹に、
2人ともはっきりと“ちょっとマズかったかも”という表情をしていた。

社内的には全く問題視されなかったけれど、
改めて指摘されてみると、確かに…と感じている様子。

ならば、私の行動も全く無駄でもなかっただろう。

その夜、朝日新聞社全体のトップである
社主の村山美知子氏のご自宅に電話
(どうやって電話番号を知ったのかは覚えていない)。

社会部長らとのやり取りを伝え、社主としての責任を問う。

村山氏いわく、
「ごめんなさいね。
私は編集内容に立ち入る権限は全くないの。
お話はよく分かるし、
お気持ちも大変よく分かります。
でも私自身、(朝日)
新聞を読んでいて首を傾げたり、
嫌な気持ちになることがあっても、
私の立場ではどうすることもできないの。お分かりになって」と。

若造相手に、至極丁寧な応答。

ガン報道については、決して口先だけでなく、
本心から慨嘆されていた…
(ちなみに、
この方、かなりご高齢ながら、今も社主のまま)。

昭和天皇の最後の侍医長として仕えた高木顕氏の手記を見ると、
名指しは避けながらも、朝日新聞のガン報道に対し、
厳しく批判しておられた
(但し出版された手記には、
図版で問題の
朝日夕刊の写真が挿入されている)。

「(記事を見て)なぜ、なんでもかんでも
あらわにしなければならないのか、
言ってよいことと悪いことの区別もつかないのか、
その時期の判断もできないのかという、憤りの気持ちでした」

「(当時、まだ実際にはなかった人工呼吸、
下顎呼吸などの記事もあり)正しく報道するのならまだしも、
この場合、はっきり申し上げて、まったく事実とは異なります。
まるで今すぐにでも亡くなられるような書き方をしており、
誤報などというレベルではありません」

等々と
(『昭和天皇最後の111日』テレビ朝日出版部)。
最近、
朝日批判が改めて高まっているようだ。
だがあの時、
朝日の異常なガン報道に抗議した人は、
一体どのくらいいたのだろうか。

私自身、何程のことも出来なかったのは、省みて慚愧に堪えない。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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