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笹幸恵
2025.1.26 15:23日々の出来事

産経新聞「正論」ー久野潤の都合のいい思い込み

ゴー宣のメーリングリストで、まいこさんが
1/24付の産経新聞「正論」欄を紹介してくれた。

<正論>英霊慰霊顕彰と皇位の男系継承
筆者は日本経済大学准教授の久野潤。
竹田恒泰一派である。

記事では、まず英霊顕彰の大切さに触れ、
次のように述べている。

建国以来の日本人が命懸けで戦い守ってきてくれたものが、
万世一系の皇室を戴く国体(国のかたち)である。
初代神武天皇以後一代の例外もなく、皇位は男系継承されてきた。
そして、大東亜戦争に参加した将兵たちは例外なく、
「皇太子御生誕」を経験している。

そして皇太子誕生を祝う北原白秋作詞の歌を紹介。
(当時サイレンが鳴り、内親王なら1回、皇太子なら2回
という決まりだったとか。白秋の歌ではサイレンが2回)

皇太子誕生を知った人々は、「守るべき国体がある」と本能的に感じ、
それがあらゆる戦場で決死の奮戦を見せた原動力になったと綴っている。
そしてこれは、昭和戦前期の日本人が、男系男子により皇位が継承される
べきだとの知見を共有していたという大前提あっての話であり、
ゆえに、大東亜戦争戦没者を英霊として慰霊顕彰することと、
皇位の男系継承を守ることは一体不可分と述べる。

「皇太子御生誕」を見た彼らが信じ、命を擲って守ろうとした国体を
ともに想定できずして、慰霊顕彰もあったものではない。

皇室の存続を願い、英霊に敬意と感謝を捧げる立場を取るならば、
皇位の男系継承という建国以来の大前提を、
この節目の時機に改めて虚心坦懐に共有することを求めたい。


ツッコミどころ満載の記事である。
英霊顕彰の重要性を訴えるのはいい。
また記事では歴史認識に関して安倍政権をさりげなく評価しているが、
ここでは触れない(私とは全く逆の認識とだけ述べておく)。
問題なのは、この記事の主旨だ。
要するに、皇位の男系継承を戦没者も望んでいたのだから、
英霊に敬意と感謝を捧げる「保守人士」ならば男系継承を主張しろ、
と言っているのだ。

いやいやいや、、論拠薄弱すぎるでしょ。
戦没者が男系継承を望んでいた理由として提示しているのは、
北原白秋作詞の歌だけ。
そりゃ当時の国民は、皇太子となる男子誕生を喜んだだろう。
それは「これで男系継承が続く」と思っていたからではなく、
明治の皇室典範が皇位継承を男子のみに限定していたからだ。
これを以て戦没者が男系継承を望んでいたなどとするのは早計であり
論理の飛躍、いや、都合のいい思い込みに過ぎない。
久野は、典範に定めてあることと、観念としての男系継承を混同している。
それすらも気がつかないほど、男系継承が「信仰」になっている。
女系天皇容認、さらには推進を求め、また自説に与しない者を
「男系カルト」等と罵倒するがごとき論者が存在するなどと
嘆いているが、全く関係のない事象ですら男系継承の論拠としてしまう
支離滅裂と思い込みの激しさ、これこそカルトのカルトたる所以ではないか。


しかも決めつけが甚だしい。
冒頭から「神武天皇以後一代の例外もなく」だの
「将兵たちは例外なく」だのと言ってるし、
記事には「先例の一切ない女系天皇」といった表現もある。
あのね、こういう言い回ししか思いつかなくなったら、
まず自分の認知を疑いなさい。
長い歳月で例外がない事象などあるのか。
歴史はそれほど単純化できるものなのか。
その懐疑的、批判的な視座こそが知性の発露でしょうが。
そもそも欠史八代はどうなってんの。
なぜ皇統が父親を辿る話になってんの。
その程度の疑問も持てなくなっているほど、
信仰が強固になっていることに気づけ。
これもまた「カルト」と呼ばれる所以である。

「男系カルト」等と罵倒するがごとき論者の存在を
嘆く前に、歴史の複雑さに堪えられなくなっている
自分の脳みそを嘆きなさい。
「男系カルト」でないならばね。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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