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高森明勅
2025.9.4 21:05皇室・皇統問題

「愛子天皇」待望論の主な根拠が世論調査という“すり替え”

産経新聞9月4日付けの「正論」欄に憲法学者の
百地章氏が「愛子天皇」待望論への批判を
展開しておられる。

その際、唯一、拙著の書名を
わざわざ掲げて戴いたのは、光栄だ。

「『愛子天皇』支持者の中には…天皇という地位は
『国民の総意』に基づくべきであり、
世論調査では9割が『女性天皇』を認めている。
この国民の気持ちを無視してよいのか
(高森明勅『愛子さま 女性天皇への道』)
との見解がある」
(百地氏「世襲の天皇と『日本国民の総意』」)

しかし、次代の天皇として敬宮殿下の
ご即位を願う立場が、専ら世論調査の結果だけを
根拠にしているかのような論調には、
いささか首をかしげる。

私がこれまで繰り返し強調してきたのは、
「人物論」ではなく、「ルール論」だということだ。
お名前を挙げて畏れ多いが、次の天皇は
「敬宮殿下か、悠仁親王殿下か」
国民はどちらを選ぶのか、といった不敬な議論ではない。

そうではなくて、目の前の皇室の危機を打開する為には、
皇室典範が抱える“構造的な欠陥”を解消し、
安定的な皇位継承を目指すルールの是正を
行うことが欠かせない。
そのルールの是正ができれば、
結果として次の天皇は敬宮殿下になる、
という順序だ。

そこをすり替えて貰っては困る。

拙著には、「愛子さまが天皇になるべき理由」
として以下の5つを掲げておいた。
念の為に、そのポイントを再掲しよう。

①「側室不在の『一夫一婦制』で、
しかも“少子化”を食い止めることができない状況なのに、
明治の皇室典範で初めて採用された
『男系男子』限定という歴史上最も窮屈な縛りに、
いつまでもしがみつくことはほとんど
自殺行為と言わなければなりません。

だから皇室の存続を願うのであれば、
そのような無理で無茶なルールを変更して、
女性天皇、女系天皇を可能にする以外に、
方法はないのです」

※もし私見を批判されるのであれば、
順序としては第1の理由として掲げた
この点から、先ず批判して欲しかった。

②「国民は男女によって構成されます。
当たり前ながら国民の約半数は女性です。
にもかかわらず、その半数を女性が占める
国民の統合の象徴に“男性しかなれない”
というルールは、いびつではありませんか。…

あらかじめ女性だけが、
ただ『女性だから』というだけの理由で排除される…
というルールは、やがてそのルールを前提とした
象徴という地位そのものの正当性
(理にかなって正しい)にも、
疑問を生じさせるのではないでしょうか。

そもそも男性天皇ならば国民統合の
象徴になりえても、女性天皇では
国民統合の象徴になりえないという、
客観的な根拠があるのでしょうか」

③「天皇の後継者はやはり天皇との血縁が最も近く、
おそばで長年にわたり感化·薫陶を
受けてきた方がふさわしい、ということです。
世襲の核心は、単なる血筋の継承ではなく、
“精神の受け継ぎ”です」

④「天皇という地位は『国民の総意』に基づくべきだ、
ということです。
もちろん、政治家のように人気投票によって
左右される軽い立場ではありません。
…そのような人気の移ろいははかないものです。
天皇という重い立場はそれらとは
区別しなければなりません。

しかし、国民の気持ちをまるで
無視してよいかといえば、それも違います。
皇室自体も、これまでの各種世論調査で長年にわたり、
高い支持を集めてきました。
瞬間最大風速的な支持とは明らかに異なります。
女性天皇についても同様です。長年にわたり
コンスタントに7割、8割、9割といった
高い支持が集まっています…。
これをまったく無視ししてよいかといえば、
そうではないでしょう。…

いつまでも男尊女卑的な感覚にとらわれて、
思考停止を続けているひと握りの人々への
過剰な配慮から、圧倒的多数の国民の願いに
背を向け続けていては、皇室を支える
国民的な基盤を危うくする結果になりかねないでしょう」

※これを批判するのであれば、
国民の気持ちは「まったく無視してよい」
という立場であることを意味する。

⑤「さきに秋篠宮家が『ジェンダー平等』という
価値観を大切にしておられる事実を紹介しました…。
このジェンダー平等は、まさに現代における
普遍的な価値観ではないでしょうか。…

天皇、皇室への“別枠扱い”について、
憲法学者の佐藤幸治氏は次のように限界づけています。
《それが世襲の象徴天皇制を維持するうえで
最小限必要なもの(に限る)》
(『日本国憲法論』)と。

ところが、皇位継承資格を男系男子に限定するという
ルールは、これまで述べてきたように、逆に憲法が設けた
『世襲制』を至難にしてしまいます。
さらに、先にも述べたように『象徴制』とも
齟齬するおそれがあります。

そうであれば当然、ジェンダー平等という
普遍的な価値観が優先されるべきでしょう」

皇位継承問題の解決を進める為であれば、
批判や反論は勿論、歓迎する。
しかしその場合、当方の論旨を正しく踏まえて戴くことが前提だ。

▼高森明勅公式サイト
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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