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高森明勅
2025.12.11 22:26皇室・皇統問題

昭和天皇記念館に展示されている3つのお椅子

 

11月29日、高森稽古照今塾の有志で立川市の
昭和天皇記念館を拝観し、八王子市の武蔵陵墓地で
大正·昭和の天皇·皇后陵を参拝した。

立川駅近くに国営昭和記念公園がある。
そこに建つ花みどり文化センターの中に
昭和天皇記念館がある。
私はこれまで何度か訪れている。

このたびは、昭和天皇の3つお椅子が印象に残った。
いずれも実際に昭和天皇が使用されたものだ。

まず、儀式用のお椅子。
豪華で荘厳さを備えている。
今も国会の開会式で用いられている玉座とほぼ同型だ。

次に、皇居·宮殿の表御座所「菊の間」での
ご執務の際に使われたお椅子。

ご執務の中身は、憲法で国事行為とされているものの殆どをカバーする。
法律·政令·条約の公布文へのご署名など、
国家の運営に欠かせない枢要な事項ばかりだ。
その責務の重大さに対して、お椅子はいかにも簡素で実用本位。

世間では見られがちな、ステータスを誇示するような気配など、微塵もない。
これは、敢えてそれを誇示する必要がない、尊貴なお立場ゆえだろう。
3つ目は、私的な研究用のお椅子。
極めて慎ましやかな質素さに驚く。
小さくて硬そうで、およそ快適さとは縁遠い印象だ。

昭和天皇の生物学上のご業績は国際的にも高く評価されていた。
にも拘わらず、終生、このような質素なお椅子を
使い続けておられた。
公私を厳格に区別され、私的方面ではあくまで
ご倹約に徹しておられた昭和天皇のご姿勢が伝わる。

天皇のお椅子というと、一般に豪華で贅沢な
イメージが強いのではないだろうか。
しかし、公的な場所であっても、儀礼として
厳かさが求められるのでなければ、
華美な装飾性や贅沢さは排された。

私的研究では、民間の研究者より慎ましそうなお椅子を、
当たり前に使っておられた事実にも、目を注いでおきたい。

武蔵陵墓地では奥側の大正天皇の多摩陵、
貞明皇后の多摩東陵から参拝し、
その後、昭和天皇の武蔵野陵、香淳皇后の武蔵野東陵にお参りした。
天皇陵に対して皇后陵が東、つまり陵側から見て左(向かって右)
に位置するのは、わが国では伝統的に左を上位とした
考え方とは矛盾するのではないか、
という疑問を持った参加者もいた。

しかし即位の礼でも、高御座の天皇が右、
御帳台の皇后が左におられる位置関係だ。

かつてブログ(令和3年3月4日公開など)でも取り上げたように、
明治時代から宮中行事では「西洋式」を採用して右優先になっている。
これは当時の文明開化の流れから、
国際儀礼に配慮してのことだろう。

御陵の造営に当たっても、明治天皇の伏見桃山陵と
昭憲皇太后の伏見桃山東陵の位置関係が、
まさに右上位になっていた(南向きに造営される陵では
西側が右、東側が左に位置する)。

過去の事例を振り返ると、天皇の○○陵、皇后の△△東陵
という形は、この明治天皇陵·昭憲皇太后陵以来のことだ。
そもそも、わが国で左上位の観念が持たれた背景については、
古代シナ唐の影響が指摘されている。

シナでは右上位と左上位が時代によって入れ替わったが、
日本で古代統一国家の体制整備が進んだ時代に、
左を上位とする唐から影響を強く受けたので、
同様の観念が定着した可能性が高いだろう。
それが明治から転換したことになる。

天皇·皇后をモデルにした雛人形の位置関係が、
京風(=左上位)と関東風(=右上位)で
逆になっていることは、広く知られているだろう。

なお、明治22年に建立された宮中三殿では、
賢所→皇霊殿→神殿という優先順位で祭祀が行われるが、
中央の賢所に対して皇霊殿が右、
神殿が左に建てられている事実も付け加えておく。

▼追記
①プレジデントオンライン11月BEST記事に、
「高森明勅の皇室ウォッチ」11月6日公開記事が選ばれ、
12月5日から再掲載。
https://president.jp/articles/-/104473

②12月16日発売の「週刊女性」(12月30日号)及び
同日前後配信の「週刊女性PRIME」にコメント掲載。

▼高森明勅公式サイト
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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