ゴー宣DOJO

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高森明勅
2015.8.3 11:00

「河野談話」の読み直し

第49回ゴー宣道場。

珍しく、小林よしのりさんが自ら司会に名乗りを。

でも、ご本人は楽しくなかったとか。

司会は余り発言出来ないし、司会に専念された分、議論の全体を、
距離を置いて大観するのも、
通常より難しかったのでは。

しかし、いつも司会を務めて下さる笹幸恵師範の発言を伺う場面が
増えたの
は、良かった。

ゲストだったジャーナリストで編集者の松竹伸幸氏の、
最初のまとまったご発言からは、特に学ぶことが多かった。

その後のやり取りでも、人柄の好さが伝わって来た。

出来れば、もう少しゲストに発言する機会を
与えて差し上げられたら、
良かったのだが。

などと私が言うと、「お前が言うな!」
小林さんからお叱りを受けそうだ。

高森の発言が無駄に長かったから、ゲストの発言時間が削られた」
と。

それは申し訳なかったと、反省している。

そのせいか、道場で折角、慰安婦問題に触れながら、
「河野談話」
そのものについて、真正面から議論出来なかったのは、
些か残念。

まぁ、取り上げるべき論点が多すぎたのが、
最大の原因だろう(
私の無駄口のせいばかりではなく!?)。

そこで、罪滅ぼしの意味も兼ねて、
私が松竹氏の著書によって気付かされ
た点を、
ごく簡単に補記しておく。

河野談話自体の中身は、
今の「保守」系の人々が漠然と考えているほど、無茶苦茶ではない。

実は、かなり慎重に練り上げられた文章になっている。

それは私も、かねて理解していたつもりだ。

えてして、河野談話を口汚く非難する人ほど、
談話を丁寧に読んでいなかったりする。

だが1ヵ所だけ、致命的な表現がある。

これがある以上、何としても撤回させねばならない、と考えて来た。

それは次の箇所だ。

「慰安婦の募集については…官憲等が直接これに加担したことも
明らかになった」と。

朝鮮半島について、このような事実は一切、「明らかになっ」
ていない。

むしろ、そうした事実はなかったと考えられる。

だから、ここだけは決定的にまずい。

それを日本国政府の公式見解として、
今後もこのまま維持することは、わが国の名誉と国益を損ない、
将来に重大な禍根を遺す。

というのが、私の考え方だった。

ところが、松竹氏の著書『慰安婦問題をこれで終わらせる。』
小学館)には、こんな指摘が。

「よく読めば分かるように、官憲等が加担した事例というのは、
慰安婦一般を扱った箇所に出てくるのであって、
朝鮮半島のことを書いた次の段落では取り上げられていない」と。

まさに「目からウロコ」の指摘。

確かに、朝鮮半島という限定を外せば、この表現は十分、成り立つ。

戦時下、日本軍の占領地では、遺憾ながらそうした事例もあった。

そのことは、秦郁彦氏の労作『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)
などによって、既に「明らか」。

慰安婦問題の経緯や、同談話が韓国側の要求に応えて発表された、
という事情などに照らして、談話を読む際、
自ずとある種の先入観が生まれていたようだ。

私自身、河野談話を公然と批判する以上、同談話を繰り返し、
出来るだけ丹念に読んで来たつもりだ。

それでも、松竹氏に指摘されるまで、文脈を読み取り損ねていた。

元日本共産党政策委員会の安保外交部長で、
今も左翼を自任しておられる松竹氏だが、この点については、
素直にシャッポを脱ぐしかない。

もとより、全てに意見が一致する訳ではない。

そうであっても、強い信念を持ちながらも、
対立者の意見にも耳を傾ける度量を備え、
冷静かつ公正な姿勢を穏やかに保った方と議論するのは、
気持ちが良い。

いずれ、また道場にお越し頂く機会があれば、嬉しい。

今回、やむなく「憲法」を巡る討議が積み残しになった
とでもあるし。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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