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倉持麟太郎
2020.7.21 11:22

風営法で「感染症対策」のために警察の立ち入りはできない~法の目的外適用という無法!!

すでに、ゴー宣サイトでも話題になっていますが、菅官房長官が風営法の立ち入り検査を「感染症対策」のために利用すると公言しています。
しかし、これは明らかに法的に問題です。
法は定立されたときの目的があり、そのために罰則を含めた手段がいくつか用意されています。
風営法の目的はというと…
「(目的)
第一条 この法律は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする。」
「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため」
「風俗営業の健全化に資するため」
ここが目的ですね。はい、感染症対策は目的に入っていません。もちろん。
で、この目的の範囲内で、法37条2項が、立入を認めています
「第三十七条 公安委員会は、この法律の施行に必要な限度において、風俗営業者、性風俗関連特殊営業を営む者、特定遊興飲食店営業者、第三十三条第六項に規定する酒類提供飲食店営業を営む者、深夜において飲食店営業(酒類提供飲食店営業を除く。)を営む者又は接客業務受託営業を営む者に対し、その業務に関し報告又は資料の提出を求めることができる。
2 警察職員は、この法律の施行に必要な限度において、次に掲げる場所に立ち入ることができる。ただし、第一号、第二号又は第四号から第七号までに掲げる営業所に設けられている個室その他これに類する施設で客が在室するものについては、この限りでない。
一 風俗営業の営業所
二 店舗型性風俗特殊営業の営業所
三 第二条第七項第一号の営業の事務所、受付所又は待機所
四 店舗型電話異性紹介営業の営業所
五 特定遊興飲食店営業の営業所
六 第三十三条第六項に規定する酒類提供飲食店営業の営業所
七 前各号に掲げるもののほか、設備を設けて客に飲食をさせる営業の営業所(深夜において営業しているものに限る。)
3 前項の規定により警察職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
4 第二項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」
さらに、この立入検査の規定は、警察の権限拡大を抑止しようという各界の圧力によって、国会の附帯決議までついています。
それがこれ
立入りの行使はできる限り避けることとし、なるべく公安委員会が求める報告又は資料の提出によって済ませるものとする」(第101国会附帯決議)
つ  ま  り
そもそも風営法の目的に適った立入検査ですら抑制的に行われるようにという立法者(国会)意思があり、そのような運用がなされてきたわけです。
にもかかわらず、
風営法の目的にもない「感染症対策」を理由に、積極的に立入ができるとすることは運用としても問題です。
また、そもそも、法を目的外で適用することは、傘で人を攻撃したり(傘は雨をよける目的で使うもの)、果物ナイフで人を刺す(果物ナイフは果物をむくためのもの)ようなもので、違法な法適用です。
警察(行政権)には、法の範囲内でしか法適用ができないという原則があります。ですので、今回の法適用は警察権力が持っている法適用の裁量の範囲を明らかに超えた違法があります。
裁量の範囲をこえているということは、警察には本来そのような権限がないのに、ない権限に基づいて立入をしているということになります。
繰り返し書きます。警察が無い権限に基づいて立入をすることになります。これ、めちゃめちゃ恐ろしくありませんか?
立入の規定があれば、感染症対策が直接の目的等になっていなくても、関係法令を駆使してガンガン警察に立ち入らせることが可能だとすれば、もはや法治国家ではありません。
では本来どうすべきかというと、感染症対策のために立ち入りを認めた法律がないのであれば、既存の法に無理矢理違法な読み込みをするのではなく、新たな立法をするか、法改正をすべきです。
そうでなければ、法改正か立法という立法権を事実上行政が行使することになり、「国会が唯一の立法機関」と定めた憲法41条違反にもなりうる話です。
さらには、無い権限によって取り締まられるということによって、憲法31条に定められた、適正手続きによらねば権利は制限されないというデュープロセスの保障にも反しています。
もはや違法の問題ではなく、違憲の問題なのです。
民主主義国家であれば、権利制限は法によってしか行われず、また、その法の執行・適用は適正に行われなければなりません。
さらにいえば、緊急事態の法体系を憲法に予定していない我が国において、そのような法改正による移動の自由や職業選択・営業の自由等々への侵害になりうる法律を合憲的に定立することが可能なのかと問題があります。法律で定めればなんでもできるというわけではありません。「男女差別法」が認められないのと同じです。
今回取り急ぎ問題になりうる職業選択や営業の自由は経済的自由としてくくられます。憲法学説や最高裁判例によると、経済的自由を制限する立法は目的に応じて審査の厳しさが変わります。
社会経済政策を目的とする規制(大店法とか)は広い立法裁量があるので緩やか審査です。一方、
衛生とか安全とかを目的とした規制(薬局距離制限とか、医者の免許制とか)は厳しめに審査します。なので、それなりの理由が必要です。
今回は後者、つまり健康、衛生、安全を目的とする経済的自由への制限です。
たとえば、無症状者の隔離の問題についても、いまだ他者加害がないにもかかわらず罰則付きの法改正など、しかも法的には”平時”では、合憲性は担保できないはずです。
緊急事態法制を前提に、それでもどこまで権利制限ができて、これを裁判所が実質的に判断できるというシステムを可及的速やかに構築しないと、すべて不安と恐怖に煽られた”雰囲気”だけで無法が野放しにされます!
日本のリベラルは、立憲主義を語る土壌がそもそも醸成されていないから改憲論議は今じゃないと主張します。しかし、このような権力の底抜け無法状態と、にもかかわらず、唯一の拠り所であるはずの法によらずに自由の制限を叫ぶ姿を見ると、つくづくこの国にリベラルはいないんだと絶望します。今まさにリベラルこそ緊急事態についての法体系とシステムを提案すべきときです!!にもかかわらず、むしろ無法を後押しする人々の恐怖心をあおり続ける一部自称リベラルは、もはや一体どういう思想なのかすらわけがわかりません。弁護士会も、学者たちも、まったくこのことに声を上げないことも理解できません。声がかれても、ここは叫び続けましょう!自由が一番尊いんや!!
倉持麟太郎

慶応義塾⼤学法学部卒業、 中央⼤学法科⼤学院修了 2012年弁護⼠登録 (第⼆東京弁護⼠会)
日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事。東京MX「モーニングクロ ス」レギュラーコメンテーター、。2015年衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考⼈として意⾒陳述、同年World forum for Democracy (欧州評議会主催)にてSpeakerとして参加。2017年度アメリカ国務省International Visitor Leadership Program(IVLP)招聘、朝日新聞言論サイトWEBRONZAレギュラー執筆等、幅広く活動中。

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