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高森明勅
2020.10.27 06:00皇統問題

男系派の不思議な熱意

昨日のブログで、明治以来の「男系男子」維持に固執する人々の、
“熱心さ”に触れた。

しかし、いささか失礼ながら、この熱意は少し奇妙な印象を与える。

何故なら、もし本気で「男系」皇統を維持したいのであれば、
かつての葦津珍彦氏(『天皇・神道・憲法』)のように、
側室の復活と非嫡出による皇位継承を再び可能にする制度改正を、
真剣に訴えなければ筋が通らない(それが実現可能かどうかは別として)。
にも拘らず、そうした声はほとんど聞こえて来ないからだ。

その一方で、皇室の尊厳と「聖域」性を損ない、
皇室と国民の区別を曖昧にしかねない、「旧宮家」系国民男性に
(結婚という人生の一大事を介さないで)そのまま皇族としての
身分取得を可能にしようとする(かなり無理で無茶な)方策だけを、
ひたすら声高に叫んでいる。

だがこの提案は、側室が不在で非嫡出の継承可能性が絶たれたままでは
(過去の宮家〔4世襲親王家〕の当主の正妻だった方が、54%〔!〕
という高い比率で男子を生んでおられなかった事実に照らして)、
皇位の安定継承それ自体には、ほとんど繋がらない。

更に不思議なのは、自ら唱えるその旧宮家案を実現させる為の、
現実的かつ具体的な努力を、懸命に重ねている気配も無いことだ。

長期に及んだ安倍政権の時代こそ、千載一遇のチャンスだったはずなのに、
事態を動かす実効的な取り組みは、何故か遂に為されないままだった
(旧宮家案にネガティブな政府の国会答弁にも特にアクション無し)。

それらに実はさほど熱心でなかったのに対し、皇位の安定継承を目指す場合
(目指さないなら、話は別だが)、現実的にほとんど唯一の妥当かつ
実現可能な選択肢と言うべき、「男系男子」限定の解除
(これにより女性・女系天皇も女性宮家も可能になる)を阻止(!)
することには、まさに渾身の力を振り絞って来たように見える。

政府がこれまで問題解決の「先延ばし」を続けて来たのも、
こうした“抵抗”に配慮した為に他ならないだろう。

多くの政治家が無関心な中、少数の熱心な男系派の“組織された”声は、
これまで一定の政治的圧力たり得たのではあるまいか。
それは率直に言って、当事者の主観的な思い込みはともかく、
結果として皇位の安定継承を遠ざけ、皇室の存続そのものを
危うくしているようにしか見えないのだが。

不思議な熱意、奇妙な情熱と言うべきか。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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