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高森明勅
2021.1.24 06:00皇統問題

男系維持と皇位の安定継承

産経新聞(1月23日付)に
「正統保ち皇位の安定継承を/『旧宮家復帰』へ動く時だ」
との論説が載った(論説副委員長、榊原智氏)。
一読、落胆を禁じ得なかった。

「皇位の安定継承を」求めながら、皇位継承の将来を不安定なもの
にしている、そもそもの“原因”に一言半句、触れていなかったからだ。

「継承権を持つ男性皇族が減り」と危機感を語る一方、
その“背景”を全く見ていない。
言う迄もなく、側室が不在となり、非嫡出による継承可能性が
排除された事実こそ、眼前の危機の根源。
にも拘(かかわ)らず、「皇室は危機にある。
…男系(父系)継承を脅かす議論がくすぶっているからだ」
と述べているのは、本末転倒も甚だしい。

「男系(父系)継承」を可能にして来た非嫡出の継承可能性が
無くなったのに、いたずらに明治以来の「男系男子」限定に
固執していれば、皇位継承はやがて行き詰まる他ない。
これこそ「皇室の危機」。
その危機を打開しなければならないからこそ、男系限定の“見直し”が
語られているのだ。
もし、そのような「議論がくすぶっている」ことに不満があるならば、
“非嫡出排除”という冷厳な現実をきちんと織り込んだ上で、
男系限定を維持したまま、かつ皇室の尊厳を損なわないで「皇位の安定継承を」
実際に可能にする、具体的方策を提示すればよいだけのこと。

それが、本当に妥当かつ実現可能なものであれば、
男系継承を「脅かす議論」など、たちまち雲散霧消するはずだ。
しかし残念ながら、この記事にはその点への言及が、
丸ごと抜け落ちている。
“スタートライン”にすら立っていない、と評する他ない。

文中、「父方をたどると必ず天皇に行き着き、初代神武天皇まで
さかのぼれる方だけが即位してきた」とある。
だが、母方で“直接”天皇に繋(つな)がり、父方では間接的にしか
繋がらない方も、即位された事実がある。
又、「父方をたどると…神武天皇までさかのぼる方」であっても
(例えば、平将門や足利尊氏など)、一度(ひとたび)皇族の身分を
離れたり、その子孫の場合、もはや二度と天皇として即位できないのが、
原則だった。

 

外は、第59代・宇多(うだ)天皇が僅か3年余り皇籍を離れた後に、
皇籍“復帰”して即位したのと、同天皇が臣籍にあった時にお生まれになり、
2年余り臣籍にあった第60代・醍醐(だいご)天皇(こちらは皇籍の“取得”)
だけ(顕宗〔けんぞう〕天皇・仁賢〔にんけん〕天皇・継体〔けいたい〕天皇
の場合は、皇族の身分を離れられていない)。

旧宮家(皇籍離脱して既に70年以上)とは到底、比べられない短期間だった。
その上、当時は身分制社会で、皇族の身分を離れられた後も、
旧宮家のように一般国民になられた訳ではない。
しかし、皇室の尊厳と「聖域」性を守り、皇室と国民の“区別”を
曖昧にしない為に、これらさえ踏襲すべき「先例」とは見なさず、
皇室典範では皇籍復帰又は(ご結婚によらない)新たな取得の可能性を一切、
除外している(第15条)。

同記事では宇多天皇などを「十分な先例」とするが、
皇室典範の趣旨を理解できていないようだ。
今更「旧宮家」案を持ち出すのであれば、これまで提出されて来た
同案への様々な疑問(当事者が否定の意思を示されている。

関係者の振る舞いにとても立派とは言えない例があった等々)に
誠実に答えるべきだったはず。
しかし、それについても沈黙したままだ。

「皇太子(皇太弟)」の称号を自ら辞退された「皇嗣」秋篠宮殿下の
ご即位を、あたかも既定の事実であるかのように扱い、
「廃太子(はいたいし)」という見当外れで刺激的な歴史用語を
“恫喝的”に持ち出して、皇位の安定継承へのフェアな議論を封殺しよう
としているのは、感心できない。

「今の皇室が女性差別と批判されるべきでないのは、
一般の男性は決して皇族になれないのに対し、一般の女性は男性皇族と
結婚して皇族になる点からも明らかだろう」という不思議な文章もある。
皇室を敬愛する国民が心配しているのは、“必ず”男子を生まなければ継嗣が
絶えてしまう(それはそのまま、皇室自体を消滅させる致命的な結果に繋がる)
という強烈な“重圧”の下では、皇室への結婚を決断できる女性が現れにくく、
皇位の継承も、皇室の存続も困難になるということ。

更に、人道的な見地から、ご結婚後、妃殿下となられた方がそのような
重圧下に置かれ続けてよいのか、という懸念が広く共有されているのだ。

「女性差別ではなく、男性差別だから大丈夫」的な子供の口喧嘩で昔、
聞いたような屁理屈(小学生なら、速攻で「男性差別でも駄目じゃん!」
と返すだろう)が、新聞の紙面を堂々と飾るとは思わなかった。
改めて言う迄もなく、これは、皇位と宮家の継承から女性が締め出され、
「男系男子」に限定されている事実から“反射的”に導かれる事態で、
ことさら国民女性だけを皇族にする目的の制度では勿論(もちろん)、
ない(目的が皇室でお生まれになった女性〔内親王・女王〕の“排除”である
ことは、典範第1条参照)。

なお、「女系論者には天皇に好意的でなかった人たちもいる。
『女系天皇』が誕生した途端、掌(てのひら)を返して
『男系でなくなったのだから正統性に乏しい』と言い出しかねない」と
警戒しておられるのが、失笑を誘う。
そんな“手のひら返し”をしたら、その本人が信用を失うだけ。
そんなことで皇室への敬愛が損なわれると本気で考えておられるのだろうか。

「君主には、多くの人が在位に納得する正統性を有していることが
極めて重要だ」との指摘は、全くその通り。
だからこそ、旧宮家案には疑問符が付けられて来た。
逆に、天皇のお子様(!)のご即位の「正統性」を、
その性別だけを理由に疑う国民が、一体どれだけいるのか?

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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