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笹幸恵
2021.6.3 13:45メディア

誰が「総力戦研究所」なのか?

玉川徹はもう脳内が相当カオスだと思う。
分科会の尾身会長が
「今の状況で五輪をやるのは普通はない」と
発言したことを受け、今朝のモーニングショーで
玉川はこう言った。

「太平洋戦争直前の総力戦研究所を思い出す」

総力戦研究所とは、真珠湾攻撃のわずか8か月前に
若手官僚や研究者、軍人を集めて開所した研究機関だ。
模擬内閣をつくり、さまざまな情報を分析して
対英米戦が始まった場合のシミュレーションを行っている。
そして、たとえ奇襲攻撃が成功しても、
日本は長期戦を強いられ、シーレーンが崩壊、
内閣は総辞職する、という結果が出た。
東条内閣はそれを知っていたにもかかわらず、
開戦に踏み切った。

要するに玉川は、尾身は正しいことを
言っているにもかかわらず、
総力戦研究所のように黙殺され、
政府はかつての軍部と同じように
オリンピックを強行しようと
している、と言いたいのだろう。

だけど全く意味がわからない。
そもそもオリンピックは開戦と同じか?
300万人の戦没者や国内の犠牲者が出るとでも?
何をもって日本の敗北になるのか?
コロナの蔓延?
言っておくけど、日本は「さざ波」ですよ。
また、玉川のこの発言の根底には、
「外国人来る、コロナ増える、五輪ダメ」という
短絡的思考がありありと見てとれる。
政府も都もさんざんやっている感染症対策とやらは
全く無意味だと言っているに等しいけど、それ気付いてる?
もはや「コロナ怖い」が脳髄までしみ込んでいるから、
玉川は聞く耳を持たないでしょうが。

問題は、この「聞く耳を持たない」点。
見たいものを見たいようにしか見ない。
自分の信じたいようにしか信じない。
これこそが元凶なのだ。
何しろ総力戦研究所のシミュレーションが黙殺され、
日本が開戦に踏み切ったのは、
戦争継続に必要な石油がちゃんと調達できますよ、と
「信じたい数字」を資料として入れたからに
ほかならない。

後世に生きる私たちが学ぶべきは、この点だ。
根拠のある数字をちゃんと見なさい。
どんなに都合の悪いことでも、ちゃんと。
日本では、ちょっと感染力の強い風邪、という程度で
緊急事態宣言を出し、経済を縮小させ、経済的困窮と
それに伴う自殺者を増やしている。
にもかかわらず、やみくもに恐怖を煽って自粛させようとする側が、
開戦を強行しようとする「軍部」なのだ。
日本においては、コロナは怖くない、
そう発信している側が総力戦研究所である。

もういい加減、表面的かつ短絡的な思考で
戦争や軍部になぞらえるのはやめなさい。
世の中にとって害悪でしかない。


総力戦研究所については『軍事トリビア』で語っています。
興味のある方はぜひご覧ください。

『笹幸恵の軍事トリビア』#54
数字と空気と知性
 「日米開戦は不可能」とした総力戦研究所の結論は
なぜ黙殺されたのか
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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