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高森明勅
2022.11.23 09:00皇統問題

古来例外なく男系継承が維持されてきたとは言えない実例検証

皇室典範第1条に次のようにある。 

「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」

これによれば、皇室典範の立場において「皇統」という
概念それ自体には男系・女系の両方が含まれることが分かる。
また男系・女系それぞれに男子・女子が含まれることになる。

その上で、法律上のルールとして、皇位の継承資格を“敢えて”
男系でしかも男子だけに限定している(男系の女子、女系の
男子・女子は除外)、という組み立てだ
(上位法の憲法は「世襲」〔=皇統による継承〕を定めるのみで、
典範のような限定は一切ない)。

以上の整理をもとに(皇室典範の改正について検討する場合は、
皇室典範“そのもの”の用語法を共通基盤としなければ、
生産的な議論に繋がらない)、歴史上の女性天皇に
当てはめると以下の通り。

①推古天皇(第33代)=父親・欽明天皇/母親・蘇我堅塩媛(男系の女子)
②皇極天皇(第35代)・③斉明天皇(第37代)=父親・茅渟王/母親・吉備姫王
(父母共に天皇の孫〔2世〕)…重祚の事例
④持統天皇(第41代)=父親・天智天皇/母親・蘇我遠智娘(男系の女子)
⑤元明天皇(第43代)=父親・天智天皇/母親・蘇我姪娘(男系の女子)
⑥元正天皇(第44代)=父親・草壁皇子/母親・元明天皇(女系の女子
←「大宝継嗣令」の“女帝の子”に該当)
⑦孝謙天皇(第46代)⑧称徳天皇(第48代)=父親・聖武天皇
/母親・藤原安宿媛(男系の女子)…重祚の事例
⑨明正天皇(第109代)=父親・後水尾天皇/母親・徳川和子(男系の女子)
⑩後桜町天皇(第117代)=父親・桜町天皇/母親・二条舎子(男系の女子)

皇位継承を巡り「男系継承」とは“男系の皇族”による
継承を意味し、以上のうち①④⑤⑦⑧⑨⑩の7例がそれに該当する。

⑥は父母共に皇統に属しているが、当時の「大宝継嗣令」が定める
“女帝の子”は父親の男性皇族の血筋=男系ではなく母親である
女性天皇の血筋=女系とするルールに基づいて、「女系継承」
と言える(本来のシナ男系主義のもとでは“同姓不婚の原則”に
真正面から抵触するので、このようなケースはあり得ない。
以下も同じ)。

②③(重祚)も両親共に皇統に属し、どちらも天皇からの
血縁の遠さが同じ(2世=父親の茅渟王が敏達天皇、母親の
吉備姫王が欽明天皇の、それぞれ孫)。
よって、父母双方が共に皇統という意味で「双系継承」と
言えるケース。
少なくとも、予め男系優先という判断枠を前提としなければ、
男系継承と判定しがたい。

以上の他、男性天皇にも言及すれば天智天皇(第38代)
・天武天皇(第40代)のご兄弟は父母共に天皇
(父親・舒明天皇/母親・皇極〔斉明〕天皇)という事例。
これも双系的で(舒明天皇と皇極天皇は伯父―姪の関係)、
男系優先という前提条件がなければ、そのまま男系継承とは
見なし難い。

又、文武天皇(第42代)は元正天皇の弟に当たるが、
即位したのは『大宝令』施行前で、『飛鳥浄御原令』に
継嗣令“女帝の子”規定に相当する条文があったとしても、
母親の元明天皇は文武天皇の“後”に即位しており
(従って即位当時は父親の草壁皇子と同じく天皇との
血縁が1世の皇族〔皇女〕)、姉とは事情が違って必ずしも
「女系継承」とは言えない。

しかし一方、上記の例と同様に双系的事例(父母はいとこ同士)で、
ことさら男系優先の視点に立つのでなければ、男系継承と断定できない。

更に注目すべきは、少し遡る欽明天皇(第29代)のケースだろう。
この天皇は、父親が天皇で母親が皇女なので、普通なら
男系と見るべきところだが、そのように簡単には言い切れない。

父親の継体天皇(第26代)は応神天皇から5世の子孫で
律令制下ならば皇族の範囲外という、傍系としても桁違いな
血統の遠さである一方、母親の手白香皇女は直系の仁賢天皇
(第24代)の皇女(1世)であって、先帝(武烈天皇〔第25代〕)
の姉に当たる。

当時の実情を見ると女系と位置付けられていた可能性が高い
(異母兄に当たる安閑天皇〔第27代〕・宣化天皇〔第28代〕は
遠い傍系の継体天皇の男系の血筋のみで、直系の手白香皇女の
女系の血筋を引いていなかったゆえに、その子孫が
皇位を継承することはなかった)。

ちなみに、欽明天皇以降の代々の天皇は
全てこの天皇の血筋を引いている。 

このように少し丁寧に振り返ると、これまで政府が
繰り返し表明してきた「男系継承が古来例外なく維持されてきた」
(平成31年3月13日、参院予算委員会での安倍晋三首相の答弁)
などと、安易に言えないことが分かる。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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