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高森明勅
2023.4.29 13:00その他ニュース

戦後歴史学のマルクス主義的偏向の実態についての正直な証言

日本歴史学会編集の『日本歴史』令和5年5月号は丁度、
第900号なので、「『日本歴史』で振り返る日本史学界」
という記念特集を組んでいる。

古代から近代に至る多彩な業績を取り上げ、
史学史的な再評価を試みている。
興味深い内容が多い。

その中で、戦後歴史学のマルクス主義的な偏向の実態について、
正直な証言が見られる。
歴史学者で九州大学教授の福田千鶴氏の一文だ。
そこに次のような記述がある。

「筆者が歴史学を志した1980年代はまだ、
『すべての歴史は階級闘争の歴史である』というテーゼ
(マルクス、エンゲルス『共産党宣言』の第1章は
「これまでの社会のすべての歴史は階級闘争の歴史である」という
断定から書き始められていた―引用者)のもとに、歴史研究が
進められていた。

…近年、近世史の論文で『階級闘争』や『変革主体』などの文字を

見ることはほぼ皆無となった。
こうした概念を用いなくても、論文を書いてよい時代になったと
いえばわかりやすいだろうか。
1980年代の階級闘争史観全盛期を知る者からすれば、隔世の感がある」

これは言い換えると、「階級闘争」とか「変革主体」といった
マルクス主義的な概念を使わないと、歴史学の論文として
認めて貰えなかった時期があったということだ。

それは何も「近世史」に限った話ではない。
私自身の見聞に照らしても、まさにその通りだった。
更に1980年代というより、もっと広く同年代以前と言うべきだろうか。

だから、その頃の歴史学の論文を読む時は、
そうした学問領域より“手前”の、事実上の強制が
存在していた現実を見落としてはならない。

1980年代と90年代との間に何があったか。
改めて言うまでもなく、ソ連の崩壊であり、冷戦の終焉だ。
そのような国際政治の激変など、本来ならアカデミックな
歴史研究の動向とは直接、関わりないはずだ。

しかし実際に、これによって戦後歴史学は大きく変貌した。
この事実は何を意味するか。戦後歴史学が、政治的な要因によって
強く規制されていたのを、裏側から証明するものと言える。

追記
4月26日、プレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチ」が
公開された(今月3回目)。
先頃、新装復刊され、大きな反響を呼んでいる、
天皇陛下の清新な青春の記録『テムズとともに 英国の二年間』
について取り上げた。

 

■記事はこちら
https://president.jp/articles/-/68853


【高森明勅公式サイト】

https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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