皇室制度の改正を巡る全体会議により
「立法府の総意」を形作る為に、立憲民主党の野田佳彦代表が、
これまで意見が対立して一致点を見出し難かった
内親王·女王の配偶者とお子さまの身分をどうするかについて、
婚姻時に皇室会議で決める、というプランを提案した。これは妙案だ。
しかし、これまで「皇室会議」について、
その名前は知っていても詳しい仕組みは分からない、
という国民が意外と多いのではあるまいか。
拙著『愛子さま 女性天皇への道』(講談社ビーシー/講談社)
214〜215ページにごく簡単な解説を書いたが、
ここでは野田提案との関連で最低限、知っておくべき
基本事項について、補足しておく。先ず、皇室会議が国家機関として卓越した
権威を帯びている点を見落としてはならない。
何しろ、皇族及び立法·行政·司法の三権の代表者が一堂に会する、
“唯一”の機関だ(議員の構成は、立法府だけ衆参両院·正副議長の4人、
他はそれぞれ2人で、合計10人)。皇室会議の責務の重さは、国家にとって極めて
重大な意味を持つ皇位継承順序の変更が、
同会議の議決のみによって可能になる事実(皇室典範第3条)
から明らかだろう。又、天皇の国事行為の全面的な代行に当たる摂政の設置、
就任順序の変更、廃止も全て、皇室会議だけの権限による
(皇室典範第16条第2項·18条·第20条)とされている。以上から、皇室会議の国家機関としての重い意義が理解できるはずだ。
議決の方法については以下の通り。
最も公共性が高い①皇位継承順序の変更、②摂政の設置、
③摂政就任順序の変更、④摂政の廃止については、
議員の3分の2以上、ある程度、私的な側面も含む
⑤天皇及び男性皇族の婚姻(皇室典範第10条)、
⑥皇族の身分からの離脱(第11条·第13条·第14条)については
過半数での議決とされる(第35条第1項)。可否同数の場合は議長(=首相)が決する(同第2項)。
過去の実例は(皇室典範特例法によるケースを除き)
⑤のみであり、実態としては全て全員一致で議決されて来ただろう
(内親王·女王はこれまで、婚姻により一律に身分を離れる
ルールであり❲第12条❳、皇室会議の関与はなかった)。なお、⑤だけは「皇室会議の議を経ることを要する」とされ、
他は全て「皇室会議の議により」とされている。
この扱いの違いは何か。「皇室会議が発議権及び決定権を持つ場合『議により』とし、
他に成立してゐる行為について皇室会議が承認乃至(ないし)
同意を与へその他これに関与する場合を『議を経る』とした」
(法制局❲内閣法制局の前身❳「皇室典範案に関する想定問答」)
という。こうした皇室会議の重大さから、皇室を巡る様々な案件についても、
広くこの会議での検討を期待する声が、一部にある。
しかし皇室会議は、専ら皇室典範及びその他の法律に根拠を持つ
事柄についてだけ、“限定的に”権限を有する(皇室典範第37条)。従って、新しく皇室会議の権限を拡大しようとする場合、
別に立法が必要になる。例えば皇室制度の改正を巡り、有識者会議や全体会議が
果たすような役割を丸ごと皇室会議に求めるなら、
その為に“一から”新しい法律を作らなければならない。
しかし、その法案作りは恐らく一筋縄では行かず、
かえって回り道となり、問題の解決を遅らせ、
混乱を拡大する可能性が高いだろう。又、皇室会議そのものの性格に照らして、
有識者会議や全体会議のような(入り組んだ議論を整理、
調整するような)役割を押し付けることが賢明とは、思えない。更に会議には、皇族からお2方の議員が加わっておられる
(現在は、秋篠宮殿下と常陸宮妃·華子殿下が議員で、
秋篠宮妃·紀子殿下と高円宮妃·久子殿下が予備議員)。
その為に、国政に関わる事項は議題から除外される。そのような皇室会議の性格、限界を見極めた上で、
活用方法を考える必要がある。これまで、男性皇族が婚姻される場合、前述の通り、
必ず皇室会議の議決を必要とした。
ならば今後、内親王·女王が婚姻後も引き続き皇族の身分を
保持されるのであれば、その婚姻に皇室会議の議決が
求められる制度改正があっても、特におかしくない。その際の皇室会議において、婚姻への同意に併せて、
配偶者とお子さまの身分についても決めるというルールが、
この度、立憲民主党から新しく提案されたことになる。
これは、先ほど述べた皇室会議の役割を十分に理解した
提案として、評価できる。現在の政治状況とこれまでの経緯に照らして、
真剣に「立法府の総意」を模索するなら、
他に選択肢は殆ど無いのではあるまいか。自民党にたとえ僅かでも、
当たり前の判断力が残っていることを願う。【高森明勅公式サイト】
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