皇室制度の改正を目指し、
衆参両院の正副議長が呼び掛けて、
全政党·会派が一堂に会した「全体会議」が行われて来た。
これはそもそも、一体、何の為に開かれているのか。普通、与党が国会の議席の過半数を占めていれば、
法案は与党の同意さえあれば提出できる。
今のように、与党が衆院の半数に達していなくても、
個別に野党と協議して、賛同が得られれば、それでOK。全政党·会派との協議などは必要ないし、
むしろ足枷になる。
なので、政府·与党としては“やりたくない”手順だろう。ならば何故、皇室制度の改正については、
敢えて法案提出に手間取る結果に繋がるはずの
「全体会議」を行っているのか。
念の為に、そこを確認しておこう。理由は簡単だ。
憲法上「国民統合の象徴」とされる
天皇に関わる制度改正なので、他の法律のように
単純多数決で押し切るのは相応しくない。
“全会一致”が最も望ましい。
たとえそれが無理でも、可能な限りそれに近付けたい、
という動機があるからだ。これは、上皇陛下のご退位を可能にした
皇室典範特例法の時に、当時の大島理森·衆院議長が
心を砕かれたことだった。
目の前で展開される有識者会議の迷走ぶりに
憂慮した大島氏が、政府に掛け合って同会議での
議論を一旦、停めさせ、「立法府の総意」形成を
優先した。政府の側も、多少の紆余曲折はあったものの、
全体会議での合意事項を骨格として、法案作りに取り組んだ。
その頃、メディアは有識者会議の動きを過大に報道した。
だが、実際の法案作りでは、同会議が関与した部分は
枝葉末節に過ぎなかった。その結果、自民党から共産党まで法案への賛成に回り、
議決の場面では反対政党が無い状態で可決できた。
これが皇室関係の法律作りの良い前例になった。
今回も、できるだけそれを踏襲しようとしている。しかし、今の額賀福志郎·衆院議長らの使命感や
政治的力量は、残念ながら往時の大島氏と比べるべくもない。
仄聞するところ、玄葉光一郎·衆院副議長などは、
各党派の合意形成がスムーズに進まなければ、
反対政党があって採決が“汚い形”になってもお構いなく、
自民·公明·維新·国民民主などによる多数決で
押し切ってでも、早く決着させたい意向だとか。
しかしそれは、自分達が呼び掛けた「全体会議」の自己否定に他ならない。ここに来て、野党第1党の立憲民主党から筋の通った妥協案
(内親王·女王の配偶者とお子さまの身分を婚姻時に
皇室会議で決めるプラン)が出された。
自民党に僅かでも良識が残っていれば、
この線で一先ず「立法府の総意」をまとめることは、
至難ではあるまい。やはり「国民統合の象徴」という
天皇の地位にふさわしい形で、第1歩目の決着を目指すべきだ。その際、立法府として“本来の課題”である
「安定的な皇位継承」に引き続き取り組むことを、
併せて合意事項に加え、第2歩目(!)に
確実に繋げることが肝要だ。【高森明勅公式サイト】
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