ゴー宣ネット道場

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切通理作
2010.10.1 02:26

人間社会はこうなっちゃいけない

       

  『ゴー宣道場』単行本にわが『せつないかもしれない』も動画番組の一つとして紹介ページを設けて頂けることになり、先日版元のワック出版さん(月刊WiLLも出されています)に、番組パートナーのしじみさんとともに訪ねさせて頂きました。

 当日の模様は、しじみさんの日記に少し触れられています。

 http://ameblo.jp/cizimikaikai/entry-10655421019.html

 しじみさんの文章に一部事実誤認があり、僕がコメント欄で訂正しています。次回ゲストの伏見憲明さんからも番組中で指摘されていますが、しじみさんは意外に人の話を聞いていたりいなかったりする、スリリングな女子のようです。

 先日も渡部陽一さんから「しじみさん、あなたはインドがピッタリです。インドで会いましょう」と言われていましたが、どういう意味なのか気になります。インドにはああいう女子がいっぱいいるのでしょうか。

 さてワック出版で頂いた新刊『バブル崩壊で死ぬか、インフレで死ぬか』を帰ってから読ませていただきました。

 副題は「不動産国家・中国の行方」であり、内容的にはこちらが本題といえます。

 ここ数日起きた中国との尖閣諸島をめぐる問題を鑑みると、実にタイムリーな出版ともいえます。

 しかしこの本を読むと、ただ単に「タイムリー」だなどと言う軽薄な感性こそがダメなのだとさえ思えてきます。

 高森明勅先生の「無意識の鍛え方」ではありませんが、中国という国を意識するということは、単なる外交問題ではなく、日本人としての身の処し方として持っていかねばならないことだと改めて認識させられました。

 著者の一人は、ゴー宣ネット道場『今晩6時です』でお馴染みの、チベットの諸事情・文化に造詣の深い有本香さん。共産党員や人民解放軍の退役軍人などの友人がおられる「知中派」でもあります。

 対する石平(せき・へい)さんは07年に日本に帰化された中国系日本人で、日中の政治・経済・外交問題について論じておられるとのこと。

 お二人の対談集であるこの本を最後まで読み、閉じた時、思わず漏れ出た言葉は、「社会がない!」

 もしここで語られていることが本当なら、中国には、人と人との単位という意味での「社会」が存在しないんだな、と。

 そうTwitterでつぶやいたら、さっそく当の有本さんから「市民社会がないんです」とつぶやき返しをしていただきました。

 つまり市民同士で話し合い、ルールを決めて行動することが出来ない。アメリカの<個人主義>とも違い、そもそもルールを守ろうという意識がない。

 それも、中国の市民には居住の自由すらないのだから仕方がないかもしれないと、本を読んで思いました。

 中国では不動産が支柱産業。ただでさえ広大な国土に目が行き届いていないのに、経済全体が不動産に集中しているため、土地を広げていくことでしかお金を吸い上げられない。

 国民は土地を取り上げる少数の層と、取り上げられる大多数の層に二極分化し、中間層が存在しない。取り上げられる土地のほとんどが農地であり、農民は流民や出稼ぎ労働者になるしかない。そういった人たちは安い労働力として使役される。共産党と一部利益集団が一致して、その権力で土地を簡単に取り上げることが出来る。

 マネーゲームと安い労働力の確保しかない社会。

 でも「ちょっと待てよ」と思いませんか。

 もし日本人が、労働の美徳をお互い尊重せず、マネーゲームに狂ったら、どんな国になるのか……。

 そしてギャンブルをする投資家以外の労働者は、ただ流民化するしかないのだとしたら……。

 1%の金持ちと99%の貧乏人しかいない、中国のような国になってしまう。

 もう、その時その時を生きるしかないのです。


 日本人のかなりの数の人々が戦後の一時期、西側諸国の民主主義や、東側の社会主義に憧れていました。

 日本人は他国の民主主義を柔軟に取り入れ、自国特有の職人精神やムラ社会と調和して、「中流」層の人々が曲がりなりにも生きていけるような社会の基盤を作ってきた。「中流」まではいかなくても、かろうじて食べてはいかれた。

 いまそれが方々で崩れ去ろうとしています。


 有本さんは中国の問題点を指摘しながら、一方で中国に感謝しているといいます。それは「人間社会はこうなっちゃいけない」という、あまりにもあからさまな反面教師としてのあり方ゆえではないでしょうか。


 もちろん、チベット人民への非人道的な振る舞いに関して、有本さんは人としても怒りに震えておられます。しかしそれすらも、日本人の持つ「地球市民」の甘い幻想を打ち砕くものとして捉える視座を提示しているのです。


 普天間問題で日米が揺れている時に、沖縄の海に入ってくるという、実にわかりやすいことをしてきてくれる中国は、日本人に抑止力というものを考えさせてくれる。


 ……だったはずなのに、このたびの尖閣諸島の問題で日本は中国に対して、ひとつの統一した国家戦略というものがないことをまたもや露にしてしまった。


 ここ数日の有本さんが
Twitterで、むしろ同じ日本人に対して怒ってるということの理由が、この本を読んで腑に落ちました。中国があれだけわかりやすくやってくれてるというのに、まだ目覚めんのか!と。


 有本さんは本で「その時その時を生きるしかないのが中国人、魂の生まれ変わりを信じるのがチベット人」と言っていましたが、日本人はその中間あたりに位置するのでしょうか。


 中国人は文化的教養に関心がなく、学歴まで名刺に記し、立身出世の道具以外に純粋な知的好奇心というものがない。李白や杜甫の漢詩はホンの一部のエリート層によって生み出されたもので「国破れて山河あり」というのは、日本人の精神構造の中で作り上げたイメージが漢詩の世界にくっついたもの。日本人が中国に見出す詩心は案外日本にある。

 ……そうお二人は言います。


  「日本人はまだ引き返せる!」――そんな、いまの自分たちにとってもっとも必要なことを教えられた気がします。

 
 追記

 これもTwitterでのやりとりで教えていただいたのですが、実はこの本には「幻の一章」があって、そこでは有本さんと石さんの子供時代の比較や、日本の文化人の中国および社会主義への幻想がどういうものだったかについて話されているそうです。

 またの機会に、ぜひそれも読ませていただきたいと思います。

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切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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