ゴー宣ネット道場

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高森明勅
2013.6.14 06:51

天皇否定は設定主義

有料動画「時事楽論」の収録があった。

対談相手の切通理作さんの提案で
「天皇は差別の根源なのだろうか?」といったテーマで、
30分の予定時間をややオーバーして喋った。

全く何の用意もしていなかったので、
私については、かなり舌足らずで、粗っぽい話になってしまった。

それでも切通さんから天皇を巡る、
ある種今さら聞けない的な、
初歩的かつ根本的な疑問を投げ掛けて頂いたので、
それなりに面白い話になったのではないかと、手前味噌ながら思う。

全て切通さんのお蔭だ。

アップされたら「誰も見たくない」というタイトルながら、
ぜひご覧頂きたい。

切通さんから「いずれ続きを」と言われているので、
機会があれば続編をやってみたい。

それにしても、もし天皇が本当に差別の根源なら、
「天皇を無くせば差別もなくなる」って結論になるはすだが、
どうしてそんな手放しの楽観論が出てくるのか。

恐らく天皇への否定的な情念が予めあって、
そこから派生した無責任な着想ではないか。

それこそ、では天皇がいない日本以外の全ての国では差別はないのか、って話になってしまう。

或いは君主制一般に拡張しても、
世界中の君主制のない国は…って話だろう。

差別という、人間にとって容易く解消し難い、
根深い問題を甘く見すぎではないか。

むしろ我が国の場合、天皇という存在を前提としてこそ、
社会から差別をより少なくしていく通路を確保しやすくなる、
と考えるべきではないのか。

これは歴史上、天皇が実際に果たして来た役割を顧みれば、
そうした見通しになる。

そもそも世界標準に照らして、
我が国は差別が甚だしい国と言えるのかどうかも、
改めて冷静かつ客観的な吟味が必要だろう。

また世界中の国々が、何となくうまく国民の統合を果たし、
安定した秩序を打ち立てているという錯覚も、
意外と広く共有されているのではないか。

そもそも民主制がきちんと機能している国が圧倒的に少数だし、
強権支配の下でも暴動が多発しているような国も普通にある。

そうした中で、
政治指導者が飛び抜けて優れているとは決して言えない日本が、
これだけ治安のよい、高度な信頼社会を築けているのは、
稀有なことと言うべきだ。

これは勿論、我々がゼロから造り上げたのではなく、
基本的には歴史から「相続」したものだ。

しかも社会はどこも、顕在的か潜在的かの違いはあっても、
本質的に寄せ木細工のような危うさを抱えている。

差別を解消するためにとか、その他一見尤もらしい、
様々な理由を掲げて、
これまで日本の社会秩序の基軸だった天皇を否定する意見は、
我々が相続した寄せ木細工のような社会をチャラにして、
人間の不完全な理性だけを頼りに、
ゼロから“理想の社会”に造り直そうという話だ。

典型的な設定主義の発想以外の何ものでもない。

何しろ今の憲法で言えば、冒頭の第1章(1〜8条)を
全部削除しようという、乱暴この上ない話なのだ。

フランス革命やロシア革命がどれだけの代償を払わされたか。

カンボジアのポル・ポト革命を思い出してもいい。

寄せ木細工が一旦崩れた時、いかに悲惨な事態が人々に襲いかかるか。

我々は、人類の愚かな歴史の中で、いくつも見てきたはずだ。
暴力革命がなくても、複雑で微妙なバランスの上に成り立つ
社会の安定を、人為的、設計主義的に再構成しようとすると、
それを遂行するには当然、とてつもなく強大な権力が求められる。

制約なき強大な権力によってこそ、
大胆かつ斬新な社会のデザイン変更を成し遂げることが出来るからだ。

そうした野蛮な動きが一旦開始されると、
人間の理性が社会の隅々まで配慮し、
将来起こり得るあらゆる場面を想定するなんて、
はなっから不可能だし、
しかも圧倒的多数の人々が速やかに最も賢明な合意に達するなどということも、
100%あり得ない以上、後は暴力革命があった場合に似た
経過を辿る他ないことは、容易く想像出来る。

それは、決して他人事ではないはずだ。

穏やかで思いやりのある日本人という虚構は、
これまでの安定した秩序を前提としてこそ、
辛うじて現実味を持ち得たことを忘れてはならない。

我々日本人も、安定した権威を基軸とし、
長い歳月によって鍛え上げられた秩序を失えば、
いつでも狼や豚のような存在に転落する可能性を孕む。

我々一人一人の幸福がもし本当に大切なら、
寄せ木細工を支える天皇という存在を否定するのは、
文字通り狂気の沙汰と言うべきだ。

なお念のために付言すれば、女性宮家を否定し、
男系限定に拘り続けるというのは、側室不在の状況下では、
皇室の存続を不可能にするから、主観的な意図がどうであれ、
結果として天皇そのものを否定するに等しいだろう。

むしろ、確信犯的な天皇否定論が社会的影響力を
ほぼ失ったように見える今日、
天皇の存在にとって最も現実的な脅威となり得るのは、
こちらの方かも知れない。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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